第79話 Mー9 ビーチイベント
休憩のあと、ユウとアリスは波打ちぎわに向かった。
海は青く澄んでいて、太陽の光で波が鱗のように白く輝いていた。
アリスははしゃいで駆け、海へと足をつける。
「ひゃー、冷たーい」
脇をしめ、足踏みしながら悲鳴を上げて楽しむアリス。ユウも続いて海へと足をつける。
「本当だ。ひんや……ぶっ!」
ユウの顔面に水飛沫が。
「しょっぱ!」
口の中に海水が入った。ゲーム世界の海水は現実と同じ様でしょっぱかった。
顔に水飛沫をかけた犯人はアリスでけらけらと笑っていた。
ユウは仕返しにと倍の水飛沫をアリスにかける。
「どりゃあー!」
「きゃー!」
互いにひとしきり水飛沫をかけあったあと、遊泳を楽しんだ。海はブイのある地点までは遊泳可能であった。
ビーチに戻ったアリスは、
「やっぱり海といえばビーチボールよねえ」
「ビーチボールなら売ってたけど」
「でも二人だし。やっぱもう一人欲しいよね。葵はどこに行ったのかしら」
「どっか行っちゃったね」
「そうね。これからどうする?」
「う~ん。他のゲームに挑戦してみる。そうだ、確かビーチバレーのゲームがあったね」
「そうね。他のゲームもやってみよ!」
○ ○ ○
「ビーチバレー大会ってどんなの?」
受付でアリスが担当に尋ねる。
「文字通りビーチバレーの大会です。先に2セット取ったチームが勝ちとなります。それとトーナメント制になっておりますので一回戦で敗退したらそこで終了となります」
その答えにユウは気付いた。
「ビーチバレーってもしかして、あれなんじゃあ……」
「あれって?」
「ビーチバレーってビーチでやるバレーのことだよ。アリスが想像するようなビーチボールを上に飛ばすようなやつじゃなくて」
「ああ! スパイク撃つやつね」
「そう。スポーツ系のやつ」
「面白いじゃない。やってみましょうよ」
なぜかやる気を見せるアリス。
「やるの? 経験ないでしょ?」
ユウは不安そうに聞く。
「なんくるないさー」
「! なぜここで沖縄弁?」
「大丈夫。大丈夫ー!」
ユウは少し思案してから、
「……でも、その前に。ビーチフラッグゲームに参加しよう」
「どうして?」
「ビーチバレーってまずビーチフラッグで体というか脚をビーチに慣れさせるって聞いたことがあるからさ」
アリスは足元を見て、
「問題ないと思うけど」
「
と、受付の担当が告げる。
「そう。……それじゃあ、まずはビーチフラッグをやろっか」
○ ○ ○
ビーチフラッグ。ビーチでうつ伏せで寝そべった状態から合図ののちに起き上がり20メートル離れたフラッグを取るというもの。至ってシンプルなスポーツ。
しかし、反射と瞬発力、体幹、脚力が重要視されるゲーム。
ユウは2回戦を勝って今、3回戦に挑戦しようとしている。
「ユウー! 頑張れー!」
――いや、今はこの試合に集中しないと。
ユウは息を吐き、集中する。そして、ゆっくりとうつ伏せになる。
ビーチの熱が体に伝わる。不快はない。もしろ心地よい。ずっとこうしてもいいとさえ感じる。勿論、そんなのはいけない。これはゲームなのだから。
ユウは耳を研ぎ澄ませてピストル音を待つ。
ピストル音が鳴り、ユウはすぐに立ち上がる。くるりと体を回転させフラッグへと駆ける。足に力をいれると砂場にエネルギーが吸収される。バランスを保ちつつ真っ直ぐと進む。両隣を見る必要もない、気配で分かる。ユウは懸命に走り、ここでというところで腕を伸ばし飛び込んだ。フラッグに向けて両腕を伸ばす。顔、体が砂場にダイブして、砂を撒き散らす。
ユウは目を開け、手を見る。
手には何も掴まれていなかった。
残念。
フラッグは右隣のNPCが掴んでいた。NPCはガッツポーズを上げ、それに観客は拍手喝采で応えていた。
○ ○ ○
「残念だったね。最後のあれ、すごくおしかったわ」
アリスがユウに労いの言葉をかける。
「ま、ビーチバレーのためだから」
「じゃあ、さっそくビーチバレー登録しに行く?」
「でもアリス、君1回戦負けだよね。慣れてないんじゃない?」
「大丈夫よ。ほら」
アリスはジャンプして大丈夫だとアピールする。
○ ○ ○
ビーチバレーの登録をしようと今、二人は受付にいる。ビーチバレーの注意事項を読んでいるとユウはサポートの項目を見つけた。
「ここにあるサポートって?」
「それはこちら側がプレイヤーの代わりにサポートとして参加させてもらうということです」
「それじゃあ私の代わりにこれでいいんじゃない?」
その発言にユウがすぐさま突っ込む。
「いやいや君がビーチボールで遊びたいって言ってたんだよ。これじゃあ、本末転倒だよ」
「ん~とね、私はビーチボールで遊びたいのよ。ガチのバレーはしたくないの」
「……じゃあ、バレー辞めとく?」
ユウは肩を落として提案する。そこに、
「あの、サポートですが途中からの参加が可能ですよ」
「途中から?」
「はい。プレイヤー様のタイミングでいつでもチェンジが可能です」
「それでいいじゃない」
アリスがそれだと指を差して言う。
○ ○ ○
先程、ビーチフラッグがあった会場にビーチバレーのコートができていた。
「わお、いつの間にか変わってる」
「ゲームの世界だからね」
ビーチバレー実行委員に名前を呼ばれ、二人はコートに入る。サーブ権はプレイヤーからでアリスがサーブを打つことに。
ボールを受け取ったアリスは動きを止めた。
「アリス?」
「ユウ、大変よ! ボール、固いよ!」
ユウはボールを受け取り、
「……ビニール製ではない。でも、バレーボール用よりかは軽そうかな」
「どうする?」
「やるしかないよ」
○ ○ ○
ビーチバレーが始まった。
アリスがアンダーでサーブを放つ。ボールはゆるやかだが、きちんと弧を描いて相手コートへと向かう。
相手はユウたちと同じ男女混合ペア。男性NPCがコート内へと来たボールをなんなくレシーブ。そのレシーブされたボールを女性NPCがレシーブさせボールを高く飛ばす。男性NPCがネットに駆け、そして背を反らせて高く飛ぶ。それにあわせてユウも両手を上げて、ネットに平行するようにブロックとして飛ぶ。
相手がスパイクを放ち、ボールはビーチに叩きつけられる。
ホイッスルが鳴り、相手チームに一点が入る。
「ドンマイ。次、いこう!」
ユウは力強く言う。しかし、アリスは消極的で、
「え、これ無理じゃない」
「バレーは基本点を入れて入れられるものだから」
「そう」
相手チームの男性がサーブを放つ。アリスとは違うオーバサーブ。力強い音で放たれたボールは速く、受け止めたアリスが悲鳴を上げた。ボールは変な方向に飛んだけど、なんとかユウがレシーブしてボールを高く上げる。
「アリス!」
「え? 私?」
順番からして、当然アリスだろう。
アリスはネットに駆け寄り、膝を曲げて強く飛ぶ。先程、男性NPCと同じような綺麗フォームだった。
「やあぁぁぁ!」
アリスが腕を振り下ろす。
――。
ボールはビーチへと落ちた。
そしてホイッスルの音が鳴る。
点が相手チームに入った。
『……』
アリスは腕を振り下ろしたのがボールには当たらなかったのだ。そしてボールはそのまま落下してユウたちの陣地に落ちた。
「ドンマイ」
アリスはにっこりとサムズアッブして言った。
「それ自分で言うかな?」
○ ○ ○
結局1ポイントも取れずに1セットを落とした。
「ここでサポートよ。私の代わりに入ってもらいましょ」
「だね」
ユウは審判に向かいサポートの旨を告げた。観客から一人の女性が現れた。赤いモノキニのような水着を着用し、長い髪を結った女性。
「葵なの?」
「はい。私がサポーターです」
「水着替えた?」
替えたわけではなく上に赤い水着を着用しただけであるが、それを言うとバナナボートの際、間違った着用であることを教えることになるので、
「はい」
嘘をついた。
「でも後ろの黒のTバックって……」
「ビーチバレー用で」
アリスの言葉を消すように声を大にして葵は言う。
「そ、そう」
葵の気迫に気圧されて、納得するアリス。
「でも逆に動きにくくない?」
「平気です」
○ ○ ○
2セット目が始まった。
相手チームの男性NPCがサーブを放つ。
それを葵が見事にレシーブしてユウへとボールを運ぶ。そしてユウはボールをスパイクしやすいように高く上げる。
葵が高く飛び、大きな音を立ててスパイクを放つ。
ボールは見事、相手陣地に落ちた。
「やったー!」
初の点数でユウは喜び、両手を上げ葵とハイタッチ。
「さあ、次です」
「ああ!」
それ以降、一進一退の攻防が始まった。
○ ○ ○
売店、奥のコーナーで葵は顔を手で覆いながら座っていた。落ち込んだ空気が辺りを支配する。
「……残念だったわね」
ロザリーが慰めの言葉をかける。
「終盤までは良かったわ。非常に惜しかった」
2セット目は21-17で敗北。ビーチバレーは先に2セット先取したチームが勝利となる。ユウたちのチームはそこで試合終了でトーナメント敗北となった。
「プレイヤー様も怒ってはいませんし、それに葵のせいだなんて思っていませんよ」
ロザリーに続いてマルテが励ましの声をかける。
葵は頑張った方だ。相手もすぐに葵ではなくユウに集中して攻撃をした。
「悔しいのではないのですよ」
『……』
二人は黙した。
葵は手を顔から離し、涙目で二人に訴える。
「なんで脱げるのですか!?」
脱げたのは赤の水着。
「そりゃあ、あんだけ動き回ってたらさ……」
ロザリーが頬を掻いて告げる。
葵の水着はビーチバレーの激しい攻防の末、紐がほどけて脱げてしまったのだ。
赤の水着の下は黒の上下。下のパンツに至っては後ろがTバック。
「紐がほどけて脱げるのは百歩譲ってわかりますけど。どうして消えるのですか?」
紐を結び直そうとしたら赤の水着が消えたのだ。
「たぶん判定として不必要なアイテムとされたのでしょう」
マルテが首を傾げて答える。
「もう最悪。……最悪です。ホント、最悪です!」
「分かったから落ち着いて」
ロザリーが宥めようと葵の肩に手を置こうとしたとき、葵が急に立ち上がった。
「消しましょう」
「いやいや、記憶を消すなんて無理だから」
「殺!」
「ダメダメ! 勝手にそんなことしたらダメだから」
「あの、プレイヤー様が葵を探しておりますわ」
マルテが外の様子を察して二人に告げる。
外ではアリスが「葵ーどこー?」と叫んでいる。
「ゲームが終わると走って逃げるからよ。ほら心配しているんじゃない。行きなさいよ」
「うぅ、会わせる顔がありません」
「心配ではなくて、どうやらビーチボールで遊ぶための人数集めのようですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます