第196話 Mー3 アリス

 アリスは島の中央から少し東南の草原にいた。

 周りをぐるり見渡すと誰もいなくて、風だけが芝を撫で音を奏でているだけだった。


「……まじか。ま、今回は両プレイヤー足しても前回の半分ほどだしね」


 前回とは違いアヴァロン側はアンケートで選ばれた100名だけ。しかも実際はイベント前に解放権を使い、逃げたプレイヤーがいて、このイベントにはアヴァロンプレイヤーは83名しかいない。


 ──ええと、イベント開始したら連絡だっけ?


 アリスは端末を取り出し、兄のレオに連絡をする。


「…………繋がらない」


 どうやら混み合っているのか、それとも他のプレイヤーと連絡しているのかレオとは連絡がつかない。

 連絡はいったん諦め、アリスはフィールドを散策し始めた。


  ◯


 たった83名。されど彼らはアンケートに選ばれたプレイヤー。選ばれたほとんどは一部を除きハイランカーである。


 例えランクリセットされてようが、ジョブ、スキル、アビリティ、所持している武器、防具で圧倒的な強さを持っている。


「じゅ、15人もいたんだぞ!」


 男は絶叫しつつ、マシンガンのトリガーを引き、たった一人のプレイヤーに向けて。

 銃口からは放たれる無数の弾丸をプレイヤーは高速で避けて、距離を詰める。


「なんで当たんねえんだよ!」


  ◯


 戦闘は終わった。

 15人いたタイタンプレイヤーをたった一人のアヴァロンプレイヤーが駆逐した。


「参加しなくて正解だったかな?」


 遠くから戦闘を眺めていたアリスは独りごちた。


「そうよねー」

「わっ、わぁ!」


 急に声をかけられてアリスは驚いた。近くにプレイヤーがいたのだ。


「確か……ええと……」

「メルクールよ。もう忘れたの?」

「すみません」

「いいのよ。で、あれは私達が参戦しても無理よねー」


 メルクールは遠くのアヴァロンプレイヤーを見て言う。


「ですよね。やっぱ私達ローランカーには今回のイベントも荷が重すぎですよね」

「私はローというわけではないけど」

「すみません」

「いいよ。で、私らみたいのでも勝つ良い方があるよ」


 メルクールはにやりと笑う。


「は、はあ」


 なんか嫌な予感だなとアリスは考えた。


  ◯


 メルクールの考えとはタイタン側のハイランカーと共にアヴァロンプレイヤーを倒すという単純なものだった。

 それでアリスにハイランカーを呼ばせようとしたのだ。


「……すみません。仲の良い知り合いはいないんです」


 アリスは自身のレオ・パーティー内での立場を述べた。


「ん〜、そうか」


 メルクールは難しい顔をして天を向く。

 そこへアリスに着信がくる。


「すみません。ちょっと通話します」


 アリスは断りを入れてから、端末を取り出す。相手は兄だった。


「もしもし?」

『お前、イベント始まったら、すぐに連絡しろって言ったろ』

「したよ。でも、そっちが繋がらなかったんでしょ」

『でも少しは間を置いて……』

「はいはい。で、兄貴は今どこに?」

『西だ。前に山の取り合いをしたとこだ。お前は?』

「中央からちょっと下。ええと山が近くにある」


 南の方に目を向けると裸の山があった。


『中央か。今、山の山頂に付近にケイティーがいるから合流しろ』

「え?」


 いつもならお前は隠れて引っ込んでろと言うのに。


『ケイティーと共にユウを探せ。そして狙え』

「……ユウを」

『分かったな』


 レオは最後にそう告げて通話を切った。


「ユウって、あのアンケートランキング3位の?」

 メルクールがアリスに聞く。


「え、あ、はい」

「ふうん」


 にんまりとした笑みを浮かべるメルクール。


「ねえ、私も一緒にいい?」

「……ええ」


 まあ、一人で登山するよりかはましかなとアリスは考えた。


  ◯


 山の麓でアリス達はケイティーと会った。ケイティーにもレオから話が通っていたようでわざわざ麓まで下りてアリスを待っていたらしい。


「こっちはメルクールさん」


 アリスはケイティーにメルクールを紹介する。


「どうもー」


 メルクールはケイティーに手を差し出す。


「どうも、ケイティーです」


 ケイティーはよく分からないが差し出された手を握る。そしてアリスにどういうことと説明を求める目を向ける。


「ええと……」

「いやあ、周りには全然味方がいなくて、ちょうどタイタンプレイヤー見つけたーと思ったら、アヴァロンプレイヤーと戦闘中で、しかも全滅しちゃったんですよねー」

 とメルクールは言い、目でアリスに同意を求める。


「ええ。15人くらいが歯が立たなかったですね」

「うんうん。で、アリスが貴女と合流するって聞いて私も同行させていただきました」

「そうですか。でも、私とアリスはユウというローランカーを狙っているのですが?」


 ケイティーは一緒にいても得にはなりませんよという意味で答える。


「分かってます。あのですよね」

「何か知っているのですか?」

「実は私、掛け持ちプレイヤーなんです」

「掛け持ち?」

 アリスが問う。


「タイタンとアヴァロンの両方をプレイしていたんです」

「で?」


 アリスとしては珍しいかもしれないが、ケイティーからするとそういうプレイヤーは珍しくもないらしく、さっさと続きをと促す。


「私、ユウとそのパーティーメンバーに会ったことあります」


 ──あれ? ユウって、初ログイン初日にロザリーのイベントに巻き込まれたんじゃあ?


「ふうん。ユウのパーティーメンバー情報はアンケート時に開示されていたから知ってるけど」

「でも、貴女だとタイタンプレイヤーだから即攻撃されるでしょ? でも、私はユウ達と面識があり、少しは隙を作れるかと?」

「私に隙が必要と?」

「いらないなら結構ですけど」


 二人とも笑顔だが、ピリッとした空気が周囲を張る。


「ユウと仲が良かったのでは?」


 そうだ。知り合いというなら、逆に助けようとしないのだろうか。


「いえ、特には。でも、やれと言われると抵抗はありますけど」

「ならどうして?」


 一緒にいればユウを倒すということ。そして今回のイベントはアヴァロンプレイヤーは倒されると消滅。つまり『死』だ。


「私の目的はアルクです。アルクを倒すのに手を貸していただければと」

「アルク……ユウのパーティーメンバーですね。その方も貴女のお知り合いでは?」

「ええ。クラスメートです」


 その告白にアリスはどきりとした。


 ケイティーは眉を上げ、

「リアルの知り合いですか。ならなおさらどうして?」

「嫌いだからです」


 低い声音でメルクールははっきりと告げた。顔は笑顔だった。それがかえってアリスには怖く感じた。


「何かあったので?」

「個人的な」

 とだけメルクールは言う。


 リアルの話はネットリテラシーやゲームプレイマナーに触発する。だからそれ以上は聞けない。


「どうです?」

 メルクールは聞く。


「いいでしょう」

「ちょっと、ちょっと、いいの?」


 アリスへケイティーを引き寄せて、聞く。


「あの目は本物です」

「本物って何よ」

「殺意です」


 ──ええ!?

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