第5話 A-5 アルク
助けてくれた赤い女剣士から話があると言われ、ユウは丘の上まで連れてこられた。
女剣士は岩場にどっかり座りこみ、腕を組む。ユウは真向かいの岩場におずおずと腰を下ろした。
「で、どうしてあんなのと戦ってたの? どう見ても初心者が手を出したらいけないってわかるでしょ?」
女剣士は眉を曲げてユウに聞いた。
「それはそのう、始めはポニテの女の人が追いかけられていて、その人がギガマッチョに何か粉袋を投げたんです。そしたらギガマッチョが立ち止まって自分の方に向かってきたんです」
ユウは子供が大人に悪さがばれたかのような気持ちで語る。
「なるほど。押し付けられたんだね。そりゃあ大変だったな」
女剣士は同情するように言う。
「いえ、そうじゃないと思います。向こうは自分のこと知らなかったと思います」
「そう。でも、まあ今度からは気をつけなさい」
「はい。気をつけます」
ユウは強く頷いた。
「しかし、まあ君みたいな初心者にもイベントチケットを配布してるとは」
女剣士はユウの体を見て言う。
「イベント抜けた方がいいですかね?」
「ん~、初心者にもチケット配布してるってことは多少は初心者でも楽しめるようにはできていると思うけど」
「どういうイベントなんですか?」
「それが今回のはわかんないんだよね。事前情報なしなんだよね」
お手上げだという感じで女剣士は手の平を空に向ける。
「じゃあイベントって基本はどういうものなんですか?」
「基本は討伐レイドだね。イベントモンスターを倒して、イベントアイテムをドロップしたりポイントを獲得したりとか。あとチーム分けされて競い合わせたりとかかな」
「そうなんですか。ではギガマッチョはイベントモンスターなんですね」
「いや、あれは恒常モンスターだ。たぶんイベントはまだ始まっていないはずだ」
そう言って女剣士は目を少し上に向ける。
ユウは時間を確かめるために端末を出した。
「ん? もしかして時刻表示をセットしてないのか?」
端末画面をみるユウに女剣士は聞く。
「セット?」
「それは知らないって面だな。設定から時刻を視界表示にしてみな。それと無意識時透明化もな」
ユウは言われた通り、時刻をセットする。
すると視界上部に時刻が表示された。時刻は16:37分を指している。イベントは18:00からだから約一時間半はある。
「ああ、これでいつでも時刻が見れるんですね。でも、視界が色々なのでわちゃわちゃしませんか?」
視界には右上にレベル、HPバー、MPバー。天井真ん中に時刻。左上にはコンパス、街の名前、矢印。視界の上はそれらで埋め尽くされている。
「だから無意識時透明化さ」
「それってなんですか?」
「いずれわかるよ」
さてと言って女剣士は立ち上がった。
ユウも立ち上がり、女剣士に礼を言った。
「君、これからどうするの?」
「街へ向かおうと思います」
「そうだな。街周辺は比較的モンスターもレベルが低いしな。そこでレベル上げを……」
そこでいったん話を止め、女剣士は右手で顎を持ち下を向いた。が、すぐに顔を上げ、
「よし。なら、一緒についてってやるよ。私も街に向かおうとしてたところだしな。道中またモンスターに出くわしたら大変だろ」
「え?」
ユウは驚きの声を上げた。それは女剣士は別の意味に捉えたのか顔に一瞬影がさして、
「ごめん。私、がつがつしてたよな」
と、言って空笑いをする。
「そんなよければお願いしますよ。自分もレベルまだ12だし」
ユウは慌てて言った。
「そうか。ならよろしくな」
女剣士は手を差し向けた。ユウはその手を握り、
「よろしくお願いします」
「私はアルク。さん付けはいらないから」
「自分はユウです」
二人は街まで移動を始めた。
「そうそう、レベルだが16だぜ」
「え?」
確認するとレベルが12から16に上がっていた。
○ ○ ○
「そうそう。良い筋してんじゃん」
ユウが山羊型のモンスターを撃退してアルクは言葉をかけた。
「そうですか?」
「今、レベルいくつ?」
「おかげで23になりました」
街までの道中、アルクの手助けのもとモンスターを倒し続けた。今では街周辺の雑魚モンスターをユウ一人でも撃退できるほど。
「ギガマッチョにもう一度挑戦するか?」
アルクが冗談交じりに提案する。
「無理に決まってますよ。相手はレベル60ですよアルクならいけそうですけど」
ユウはアルクの頭上を見る。すると今まで何もなかったのに頭上から名とランクが現れる。これがそきほど言っていた無意識時透明化というものだった。ユウの視界の時刻や矢印なども無意識時は透明化していて意識すると現れる。
「どうしてランク表示なんですか?」
アルクの頭上にはレベルではなく、ランク87と表示されている。
「私クラスになるとレベルじゃなくてランク表示が普通になるんだ」
「レベルとランクの違いって何ですか? というかランクって何?」
というユウの発言にアルクはまじでという顔をする。
「ランク知らないのかよ」
ユウはこくりと頷いた。
「それもそうか。今日始めたばかりの初心者だもんな」
アルクは顎撫で俯いたり、空を仰いだりする。
「レベルはわかるよな?」
「それは知ってますよ。馬鹿にしないでください。レベルが上がればステータスも上がる。つまり強くなるってことでしょ」
「そうだ。ならランクっていうのは『現在の活動可能なレベル上限』ということなんだよ」
ユウは眉を寄せ、首を傾げる。
「え? ん? どういうこと?」
「例えば、レベル50でもランクが38ならそいつの強さはレベル38なんだ」
「つまりレベルを上げてもランクが上がらないと強くならないということですか?」
「そう。だから楽してレベル上げてもランクが低かったら弱いままさ。ステータスにも気をつけろよ。ステータスはレベルで表されているからランクが低かったら実際のステータスも低いからな」
「なんか深い設定ですね」
と、ユウが感嘆な声を上げるとアルクはきょとんとしたのち、笑った。
「ハハハ、面倒くさいじゃなくて深いか。君よっぽどゲーム脳してるよ」
ユウは顔を赤らめ抗議する。
「笑わないでください」
「ごめんごめん」
と、謝りつつもまだ顔はゆるい。
「それじゃあランクが高かったらどうなるんですか?」
「ああ、それはない。ランクがレベルより上ってのは」
手を振ってアルクは否定する。
「ランクはどうやったら上がるんです?」
「正式にはわかってないけど攻略班曰く、『自身と同レベルかそれ以上のやつと何度も戦うこと。それと体をよく動かすこと。自身の限界を越えようとすること』だってさ。なんか曖昧だよな」
ユウは自身のランクをプロフィールから確認した。ランクは23。
「最初はレベル=ランクだから問題ないよ。問題は5じゅ……ってペルソナ型じゃん」
端末を覗いていたアルクが驚く。
「ええ。ペルソナ型ですけど。やっぱ珍しいですかね」
「そりゃあリアルとほぼ同じ姿だろ。よっぽど自分に自信がないとペルソナ型なんて選ばないぞ」
「いやあ、別に自信があるってわけでもないんですけど」
と、ユウは苦笑いする。
アルクは改めてユウの体を眺め回す。
「もしかして名前も?」
「ええ」
ユウはすんなりと答えた。
「まじかよ。私は怖くてできないわ。身バレするじゃん。あんまりこのこと口外するなよ。後々トラブルとかになるからさ」
ユウは「はい」と言って頷いた。
「アルクさんはガチャ産なんですね」
「まあね。結構、回したよ」
「名前はジャンヌ・ダルクからですか? それとも有名なアーティストからですか?」
「いや、名前は本名だ」
アルクは頬かいて、恥かし気に答えた。
「外人さんですか?」
「違う。違う。キラキラネームさ。フランス語で虹をラルク・アン・シエルっていうんだよ。で、親は空橋でアルクってつけたんだよ」
「……」
「どうした? そんなに驚くか? アルクって名前そんなに珍しいか?」
ユウは俯き、思案した。そして、顔を上げ、アルクの顔を指差した。
「もしかして、花田空橋?」
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