第146話 Aー14 一方その頃②

 イベントが始まって1が経った。


 このレベル・ランク50イベントは三日間行われる。イベント日数が三日以上あるのは別段不思議ではない。たいていは二週間の日数が設けられる。


 ただ、それはの時にである。今のようにゲーム内にログアウト出来ずにずっとプレイさせられるのはさすがに堪える。


 さらに全てのプレイヤーはゲーム内に囚われることが初めてのため、こう言う時の加減が分かっていない。そのせいか初日から全力で挑むプレイヤーが多数いた。でもそのほとんどは拠点候補の山頂を確保してのものだった。


 そして1日が経ち──。


「明日の終了時間まで、何しましょうか?」


 スゥイーリアが椅子に座り、テーブルに肩肘をついてぽつりと誰ともなしに言う。


 ここは東の山に作った山頂の拠点。


 椅子やテーブル、テントが設置されている。それらはテイマースキルや錬金術アビリティーを持っているプレイヤーに拵えさせたもの。


「西の山も踏破しましたし、やることないよね〜。ポイントも貯まったし」


 リルも椅子に浅く座り、背もたれにもたれさせ、足を投げ出して答える。


「もう、お二人共、いつタイタンプレイヤーが襲ってくるか分からないんですよ」


 メイド服のメイプルが溜め息混じりに言う。そのメイプルが山頂から錬金術で作った双眼鏡で眼下を窺っている。


「でも来るなら夜襲でしょ?」

「リル、昼に来るかもしれませんよ。昨日だって昼だったではないですか」

「あれは開始そうそうだったからよ。それに連携も人数も整ってなかったし。仲間を揃えてから夜に来るんじゃない?」

「でもどうしてリルは彼らが夜にやって来ると?」

 スゥイーリアが聞いた。


 こちらも夜襲を警戒して見回りをつけている。向こうもそれくらいは計算に入れているだろうし。


「そりゃあ、暗視スコープがあるんでしょ? なら来るなら夜よ」

「んん〜? ……暗視スコープですか。確かに便利な機械系があるのがタイタン側ですよね。でも、それだとどうして連携が取れなかったのでしょうか? トランシーバーとかインカムとか色々あるでしょうに」

「あ、本当だね」

「元々そういった通信機器はサブアイテム枠やパーティー装備枠だそうですよ。そしてそういうのはイベントでは使用できないらしいですよ」

「まじで?」

「ええ。もしサブアイテムを持ち込めたら、向こうは戦車とか持ってきますよ」

「戦車? さすがにそれが可能になったら酷いや」

「戦車で思い出したのですが、向こうにはロケットランチャーとか大砲とかがメイン装備にあるのでは?」

「大砲は分かりませんがロケットランチャーはあったかと」

 メイプルは自信なさそうに答える。


「この前の制圧戦で機関銃とか大砲がありましたよ?」


 スゥイーリアは以前の制圧戦で要塞攻略の際に機関銃や大砲などの攻撃を受けた。


「あれは要塞の……いえ、あれも装備であるのでしょうかね?」

「もしロケットランチャーで来られたら厄介だね?」

「そうですね。たとえ攻めてこなくても就寝中にで来られるとやっかいですね。しかも向こうは暗視スコープありの遠距離攻撃メインですから大変ですね。それに人が集まった所なんて狙いやすいでしょうに」

『…………』

「? どうしたのです?」

 二人が止まったのでスゥイーリアは尋ねる。


「……いや、そういうのもあるのかなって」

「爆発とか五月蝿いですものね」

「夜襲対策しておかないとね」

「ええ」


  ◯ ◯ ◯


 そして日付が変わった深夜になり、東と西の山頂から爆撃音が鳴り響く。しかし、どの爆撃も山頂のバリアに阻まれる。


「ああ! やっぱり来たか!」

「防御シールドカチカチに張っておいて正解でしたね」


 防御シールドは二つ張っている。一つは山頂を覆う広域の防御シールド。もう一つは拠点周囲を守る半径十メートルの防御シールド。


 その防御シールドは透明であるが、爆弾等による攻撃を受けると着弾地点にオーロラのような色が生まれる。そしてその向こうには赤い爆炎と煙。


「本当、五月蝿すぎよ」

 セラは両耳を手で塞いでいる。


 爆撃は絶え間なく、鳴り響いている。


「いつになったら終わるんだ?」

 セラの声は爆撃音で消える。


「え? なんて?」

 リルは耳の後ろに手を立てて聞く。


「いーつーに、なったら、おーわーるのか?」

「さあ? 爆撃が終わったらどうする?」

「安眠妨害したクズは潰さなきゃあ」

 セラは怖い笑みを向ける。


 そして爆撃が止み始めたところでスゥイーリアはテイマーのエリリンに合図を送る。


 エリリンは動物を使い山腹に忍んでいるプレイヤー達に連絡を送る。

 鳥、リス、蛇、ウサギ、鹿がエリリンの命に応じて動く。鳥とリスには手紙を付けて他のプレイヤーに連絡を。蛇、ウサギ、鹿は同じテイマージョブのプレイヤーに向けて送る。


「んじゃ、私も行ってくるわ」

 と言ってセラは防御シールドの外に出る。


「では私はこっちから」

 リルはセラと互いに反対方向から山を駆け下りる。


「メイプル、私も行ったほうがよろしいのですかね?」

「貴女は別にいいのでは?」

「でもケントやエイラがまだ確認されていませんし、もしこの夜襲に参加してたら……」

「セラもリルも強いのですから。それに山腹には忍ばせたプレイヤーが沢山いますし、大丈夫ですよ」

「そうですか?」


 まだどこか納得のいっていないスゥイーリア。


「貴女はここを守らないと」


 防御シールドは外からの攻撃は防ぐが、敵の侵入は守らない。


「……分かりました」

 肩を落としてスゥイーリアは言う。


 そして麓で戦闘が始まったらしく、音と光が。爆音と銃声、弾道の光はタイタン側で、雷光や爆炎、白い光や虹のオーラはアヴァロン側が生み出したものであろう。


「暇だー!」


 と声を出してスゥイーリアは両手を天に挙げた。いつもとは違う仕草にメイプルは驚く。


 その瞬間だ。背後から一直線で向かう影、空から急降下する影がスゥイーリアを襲う。


 背後の影はビームソードで背中を横一閃に、空からの影はビームランスでスゥイーリアの頭頂部を狙う。


 双方、レベル・ランク50とは思えない速さだった。


 けど──。


「んん? やっぱ、50だと全然遅いですね」

 とスゥイーリアは奇襲をひらりと避ける。


 奇襲した二人は危うくぶつかりそうになる。


「この奇襲で無理とはな。本当にレベルとランクが50になってんのか?」


 背後から奇襲をかけた人物、ケントが疑問の声を出す。


「奇襲が失敗したのは見え見えの殺気のせいでしょ。あまりにも仕掛けて来ないのでわざわざ隙を見せたんですよ」

「そうかい。2人がかりだけど文句を言うのなよ」

「ええ、かま──」


 構いませんという言葉を銃声がかき消す。


 スゥイーリアは避け、メイプルは鉛色のシールドで防ぐ。


 その銃声はエイラのハンドガンによるもの。


「せっかちなお人で。メイプルは後ろに。敵の奇襲に気をつけて。それと山頂付近にいる仲間を」

「分かりました」

 メイプルはその場を去る。


 そして周囲には3人となった。


 エイラはハンドガンで銃撃しつつ、スゥイーリアに左旋回で迫る。ケントは右回りに走る。


 スゥイーリアの剣が白く光り輝き、エイラに向け剣を振るうと光の刃が高速で放たれる。


 エイラは光の刃を槍で簡単に打ち消す。そして槍の刃を向けたままスゥイーリアに突進する。


 それをスゥイーリアは剣で受け止めた。その隙を突いてケントがスゥイーリアの背にビームソードを振る。


「あら?」


 スゥイーリアは鞘でケントのビームソードを弾き、大きく後ろへ退く。


「ふう、人気者は困りますね〜」

「随分余裕ね!」


 エイラは直進してビームランスをスゥイーリアへと向ける。


「やあ!」


 電流が爆ぜる音が鳴り響く。

 エイラのビームランスの突きを防いだのはスゥイーリアの剣ではなく、突如として現れた鉛色の盾だった。


「なっ!?」


 そして鉛色の剣や槍が雨となりエイラに降り注ぐ。

 エイラは飛行機能を使い、後ろへと回避行動を取る。


「スゥイーリア、お待たせしました」


 メイプルが地面に突き刺さった鉛の盾を引き抜く。丸い縦が月明かりを反射して鉛色から白色へと変わる。


「連絡は済ませたのですね」

「ええ。万事順調に」

「では、あなたは彼女を。私はケントを」

「了解しました」


 その返事にスゥイーリアは微笑み、そして口を結んでケントに高速で突っ込む。


「ちっ!」


 ケントはビームソードを振って、スゥイーリアの剣撃を防ぐ。

 エイラは援護しようとするも。


「あなたのお相手はわたくしですので」

 メイプルは鉛のクナイを投げる。


「ちっ!」

「エイラ! こっちはなんとかするから、そっちはそいつを頼む」

「わかったわ」


 エイラはハンドガンでメイプルを狙い撃つ。それをメイプルは鉛の盾で防ぐ。


 その間、メイプルは錬金術を使い、先程降り注いだ鉛の剣や槍を溶け合わせて自身にそっくりの個体を生み出す。


「それがレオの言っていた錬金術だっけ?」

「彼のお知り合いで?」

「まあね」


 エイラは低空飛行で瞬時に偽メイプルの体にビームランスを突き刺す。

 鉛の分身は上半身と下半身に別れる。


「思ってたより弱いのね」

「ではもっと沢山必要ですかね?」


 鉛の剣や槍がまた大量に降ってくる。


「っと!?」


 エイラは回避しつつ、おかしいと感じた。

 


 ──誰か空から投げている? いいえ。人の気配ないわ。とすれば、山頂のどこかから誰かが投げている?


「余所見しているとケガしますよ」


 新たに作られた鉛のメイプルが鎖付きの鉄球を振り回してエイラを攻撃する。


「ああ、もう!」


 エイラは苛立ちの声を発して、ハンドガンのトリガー引く。


 銃弾が鉛のメイプルをボロボロのオブジェに変える。

 エイラはビームランスを投げ、メイプルの体を貫く。


 するとメイプルの体は鉛色になり、溶けてゆく。つまり、そのメイプルもまた錬金術で作られた人形ということ。


 しかし、それは計算のうちだった。


 かつてメイプルと戦闘したレオからの情報でそういうこともあると考慮していたのだ。ゆえにエイラはビームランスが当たった瞬間、周囲を伺っていた。


 そしてまた空から鉛の雨が降る。

 否、鉛が地上から空へ飛ばされ、雨のように降ってきたのだ。


 ──そこ!


 すぐエイラは投げられた場所へと飛行機能を使い飛んだ。


 向かった先は少し離れた岩壁の上。そこにはメイプル達がいた。


 そして上空から今度はこちらの番と言わんように銃弾の雨を降らした。何体かをボロボロに蹴散らし、そして最後の一体にビームソードで頭から胴体へと垂直に斬った。


 ──終わっ……ええ?


 本体と思ったそれも鉛の人形だった。


「残念でした」


 気配を感じてエイラは振り返る。

 現れたのはメイプルだった。しかもその後ろには何体もいる。


「なかなかでした」


 また後ろから声が。少し後ろへと振り返ると、そこにもまたメイプル達がいた。


「お強いですね」

 次は左。


「昼ごろでしたら敗れてましたね」

 右にもメイプル達が現れる。


「何体いるのよ!?」

「ふふっ、さあ十何体でしょう?」

「いくら錬金術といえど分身を十何体も作れないでしょ?」


 レベルとランクが50になっているのだ。例えハイランカーといえど、ステータスは大幅に減っているのだ。MPも少ないはず。なら錬金術もおいそれと使用ができないはず。


 にも関わらずメイプルは十何体も分身を作った。


「ですので昼ごろでしたら負けていたでしょう」

 メイプルはにっこり微笑んで答える。


「よく分かんないけど。ピンチってことは分かるわ」

「逃げます?」

「冗談」


 もし自分が逃げたらレオが計画する大規模パーティー計画がおじゃんになる。

 エイラは強い意志を瞳に浮かび上がらせ、メイプル達へと攻撃を開始する。

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