これは石材業者から聞いた話だ。

 差し障りはあるが、完全フィクションではない。


 お客さん(Aさん)には先祖代々の墓があった。

 Aさんの父は若くして亡くなったので、自身の墓を建てられず、長男ではないのに本家の墓に入っていた。


 その後、子供たちは成人して、親のために墓を建てた。

 当然、墓を建てただけでは、中身は空なので、父親の骨を分骨してもらわなくてはならなかった。


 Aさんの子供たちは、本家の親戚に、父の墓を作るから骨を分けてほしいと伝えたそうだ。分骨は石材業者を呼んで、墓を開け、該当の人の骨を取り出す必要がある。


 Aさんの父が亡くなったのは20年以上前だった。


 しかし、墓を開けてみたら、Aさんの遺骨とは別に、真新しい骨壺が収まっていたそうだ。

 それが誰の骨なのか、誰も知らない。

 だから、何のために骨壺を置いたかも、まったくわからないままだったそうだ。

 取り出して捨てるわけにもいかないので、その氏名不詳の遺骨は今も先祖代々の墓に収まっているということだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る