宅急便

 宅急便はもう生活の一部だ。

 俺はよく通販を利用するから、週2-3回は荷物が届く。

 普通だと思うかもしれないが、俺は一人暮らし。買い過ぎだといつも後悔する。

 家族がいる人なら、毎日何かしら届くと言う人も珍しくないかもしれない。


 佐川、ヤマト、ゆうパックがほとんどで、これにヨドバシ、ロハコ、アマゾンなどが加わる。


 宅急便の人はいつも同じなのかもしれないが、俺は人の顔を覚えられないので、超イケメンとか女性でない限りは覚えられない。


 悪い意味で覚えている人はいる。

 某宅配の人で、配達が間に合わないのか、いつも夜9時を過ぎて持って来る人がいた。

 一番遅い時は9時半を過ぎていた。

 そんな時間にインターホンが鳴るとびっくりする。

 多分、荷物が多すぎて配りきれないのだろうから、クレームを入れたりはしない。


 それに、朝9時より前に持って来る人もいる。

 日付指定をしてるのに、前日に届くとか、再配達を依頼したのに来ないというのもあった。


 あとは、誤配も何度かあり。箱に穴が開いているとか、配達員の人が植木を倒してしまったこともあった。まあ、いいんだ。気にしてない。


 これは、会社の同僚の友達(男)の話。

 友達のAさんは、宅急便のドライバーをしていたそうだ。


 宅急便はやっぱり大変。

 時間指定しているのに、指定した時間にいないというのはよくある話。

 ちゃんとやっていても、言いがかりに近いような意味不明なクレームが来たりする。


 それより、Aさんは変な客の所に行くのが苦痛だったとか・・・。

 その中に、毎回、腰にタオルを巻いて出て来る男がいたそうだ。

 一回くらいなら風呂に入ってたんだろうと思うけど、毎回そうだったらしい。

 もしかしたら、裸で生活してて、宅急便の時だけタオルを巻いているのかもしれないと思っていたそうだ。


 髭面で痩せていたらしい。頭は坊主。年は50くらいに見えたとか。

 もしかしたら、ゲイの人で、自分のことを誘っているのかもしれないと、Aさんは途中から目を合せないようにしていたそうだ。

 足元を見ると、履き古した汚い靴が何足も置いてあった。

 かなりサイズの大きい物もあり、そこが仲間うちのたまり場のようになっているんだと思った。タバコ臭くて麻雀でもやっていそう雰囲気だった。廊下にはだらしなく物が散乱していた。


 ある時、Aさんは荷物を持って、その変な客が住んでるマンションに行った。

 職業柄、名前でどの人か覚えているのだが、あのタオルおじさんの荷物もあった。


 1階に警察が来ていた。 

 Aさんは邪魔になるといけないので、警察の人に声を掛けた。

「宅急便配っても大丈夫ですか?」

「いいですけど、階段使ってもらえますか?」

「はぁ・・・何かあったんですか?」

「ちょっと・・・人が亡くなって。5階の荷物ありますか?」

「はい。503の・・・〇〇さん」

「あ、その部屋は駄目」

「なんかあったんですか?」

「まだ発表できてないから・・・」

 Aさんは嫌な予感がしたそうだ。 

 もしかして、おじさん亡くなったのかな。交際相手との痴話げんかとか・・・。あの靴の持ち主の誰かとできていて、そのトラブルに巻き込まれたに違いないとAさんは予想していた。


 Aさんはその夜のニュースで、宛名ラベルで見慣れた名前を発見した。


『今日午後、都内のマンションで40代男性が死亡しました。練馬区在住無職、熊谷〇〇さん(48)が、食事の後動かなくなっていると同居人の男から消防に通報がありました・・・救急車で病院に運ばれましたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。

 

 熊谷さんは、今年の3月から自宅マンションに監禁されており、知人の男数人から殴る蹴るなど日常的な暴行を受けていたとみられています。発見当時はやせ細り、かなり衰弱していたということです』


 Aさんは責任を感じてしまったそうだ。自分がもっと受取人の顔を見て気が付いてあげられたらよかったのに、と後悔した。タオルを巻いていたけど腰が随分細かった気がする。手足もやせ細っていた。変な勘違いをしてしまったせいで、目を見る勇気がなかった・・・。


 そして、Aさんはドライバーの仕事はすぐやめたそうだ。

 知らない人の家に行くのが怖くなってしまったとか。

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