創造主
これはネットから拾ってきた話だ。
ある女子高生、A子は小説を書くのが趣味だった。
知的な子で、レベルの高い女子校に通っていたけど、そこでもいい成績を取っていた。A子は、この世の中には自分だけが存在していて、あとは幻想だと思っていた。哲学でいう唯我論というやつだろうか。
その子は学校で嫌なことがあると、腹の立つ相手が登場する小説を書いていた。
クラスに嫌いな人が何人もいて、全員を不幸のどん底に突き落とすようなストーリーを創作していた。誰が一番嫌いかというと簡単には選べないのだが、嫌いな人たちの上位集団があった。その中の一人B子がある日、車に接触してケガをした。かなりの重傷で入院が必要だった。
A子は喜んだ。
その子はしばらく学校に来れないから、嫌な奴が一人減ったのだ。
B子がもう学校に戻って来ない設定で続きを書いた。
その後、B子は入院中に他の病気が見つかって、さらに入院することになった。
その時は3年生だったから、きっと受験にも影響すると思った。
落ちればいいんだと・・・A子は小説の続きを書いた。
B子は受験に失敗して、精神崩壊。
一生引きこもりと書いた。
そしたら、それに近い状態になったのだ。
病院に入院していて、受験時期に退院できなかったからだ。
A子は高校を卒業して、都内の大学に進学した。
大学でも嫌なことがたくさんあった。
嫌な人もたくさんいた。
A子はB子の存在なんて、すっかり忘れていた。
その時書いていた小説は、親に見られると困るので全部捨ててしまったし、何を書いたかも覚えていなかった。
それから、30年後に高校の同窓会があった。
すると、B子は受験に失敗して、それからずっと引きこもりだと聞かされた。
あ、あの時、私があんな小説を書いたせいで、B子はそんなに不幸になったんだと思った。
しかし、A子はB子を救うような続きを書くつもりはなかった。
もう二度と会うことはなくても、一度は心の底から憎んだ相手だからだ。
「いい気味だ」とA子は思った。
A子は50歳の時に脳出血で倒れた。
麻痺が残ってしまい寝たきりになった。
結婚して子供がいたが、旦那が引き取って2人は離婚した。
B子の手元にはノートがあった。
そこには、高校時代のクラスメイトで嫌いだった子を登場人物にした小説が書かれていた。一番嫌いだったのはA子だった。A子は協調性がなくてわがままで、いつも人の悪口ばかり言っていた。何年か前の同窓会で、A子は相変わらず嫌な女だったとみんなが言っていた。東京で大企業に勤めて、エリートの旦那と結婚して子供が2人いたそうだ。
B子は書いた。A子は50歳くらいで寝たきりになって、離婚する。子供とも会えなくなる・・・。
B子の世界は実家の6帖だけだった。それが世界のすべてだった。
B子は自分の書いた物語が現実になると思っていた。
それまでも何度か現実になったことがあったから。
そのことをA子は知らなかった。
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