エレベーター

 これは俺が前の会社に勤めていた時の話だ。

 その会社が入居していたビルは真新しくて、賃料が高かった。

 そういう場所に住所があることはステイタスだ。

 儲かってるように見える。

 下層階はショッピングやレストランのフロアで、上の階は全部オフィスだった。

 一番下のフロアは地下鉄の駅の通路のつながっていた。


 ビルの中にいくつかエレベーターがあったが、俺はいつも駅に一番近いエレベーターを使っていた。


 壁がガラス張りで、地上に出ている時は外が見えてきれいなのだが、地下に行くとガラスを通してコンクリートの壁が見える。


 いつも、壁を見ないようにしていた。

 そこに人のような影があったからだ。


 人が両手を広げて這い上がっているようなシミが浮き出ていた。

 口が広げてもがき苦しんでいるような気がした。

 火災か何かで下から燃やされているような、そんな光景に見えた。

 俺はそのエレベーターに乗ると、いつも何かに見られているような気がした。


 エレベーターは監視されているから、誰かが見ているというのは仕方がない。

 でも、その時は至近距離でじっと何かが俺を見ている気がした。


 俺は帰りが遅くて、いつも1人で乗っていた。


 ある夜のこと。

 俺は帰りが遅くなって、またエレベーターに1人になった。


 嫌だなと思ったけど仕方ない。

 じっと立って横を見ないようにしていた。


 なんだか首の辺りにふわふわした物が当たった。蜘蛛の巣みたいな感触だった。俺は手で払い除けた。まだ、何かが触ってる。払い除けながら、角のミラー見た。


 すると思いがけない物が写っていた・・・

 全身灰色の人間が俺の肩にしがみついていたんだ。


「うぁあ!」


 俺は叫んで思わず駆け出してしまった。

 そして、エレベーターのドアに激突してしまった。

「いたっ!」

 そして、鼻をぶつけて倒れ込んだ。

 頭を抱えてうずくまってしまった。

 やめてくれ! 

 俺は心の中で叫んでいた。

 ほんの数秒後にはエレベーターが止まって、扉が開いた。


「大丈夫ですか?」

 

 紳士的な声のスーツ姿の男の人だった。

 俺はほっとして顔を上げた。

 その人は俺の顔を見てぎょっとしていた。

 

「どうしたんですか?」

「ちょっと倒れてしまって」

「病院・・・行った方が・・・」

「もうやってないですよ。ありがとうございました・・・」

「血がいっぱい出てるからトイレ行って見た方がいいですよ。そのまま電車には乗らない方が・・・」


 手が血だらけだった。


「これ良かったら・・・」

 と、その人はウエットティッシュを1パックくれた。

「ほんとすみません」

「先に、手、拭いた方が・・・」

 俺はウエットティッシュで手を拭くと、その人は床に落ちていたカバンを手渡してくれた。


 俺はエレベーターを降りた時、後ろを見たけど何もなかった・・・。

 

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