俺が子供の時の話だ。


 俺は子供の頃、穴掘りが好きだった。

 よく公園の端の方で穴を掘っていた。


 珍しい石や化石が出てこないかと思って、無心で穴を掘り進めていた。

 そんなことをしていても、公園のど真ん中でなかったら、怒る人はいない。


 田舎だから公園は広くて、子供は少ししかいなかった。

 公園なんか行かなくても、他に遊ぶ場所があるからだ。

 

 だから、誰も俺が何をやってるかなんて気に留めない。

 俺は友達と色々な所に穴を開けていた。


 ある時、空き缶が出てきた。

 横は30センチくらいの大きなクッキーの箱だった。

 塗装は剥げていなくて真新しかった。


 蓋を開けてみたら、兎の死体が入っていた。

 まだ腐ってなくて、埋めたばかりのようだった。体は硬くて剥製みたいだった。

 毛は砂をかぶって埃っぽくなっていた

 俺はびっくりして友達呼んだ。

 多分、ペットの兎を埋めたんだと思った。

 なぜ、公園に?と思ったけど、そのままにしておくと呪われそうなので、元通りに埋め直した。


 数日後に今度は猫が出て来た。透明のビニール袋に入っていた。

 俺は一人だったから、黙って元に戻した。

 そこはどうやら、ペットの墓場のようだった。

 昔はペット霊園なんてなかったから、死んだ動物は家の庭に埋めるのが普通だった。俺は自分ちの庭に埋めればいいのに、と思っていた。


 それから、別の日に、違う場所を掘っていると、今度はもっと大きなものが出てきた。土に直に埋めてあった。

 白いと茶色い毛並みのけっこう大きい動物だった。

 俺は直感で犬だと思った。

 

 まだ腐ってなかったようだ。

 背中を見ただけ見て、俺は最後まで掘り進める勇気がなかった。

 動物でも、死んでいると気持ち悪かった。

 すぐに埋め戻した。


 その日、自転車で家に帰る途中、電信柱に張り紙が貼ってあるを見つけた。

 そこには、カラーの犬の写真が貼ってあって、電話番号が書いてあった。

 『見つけてくれた方にはお礼します』とあった。


 俺はって何だろうと思って、わくわくした。

 それに、人に感謝されることをやってみたかった。


 公衆電話からその番号に電話を掛けた。


「〇〇公園に茶色い毛の犬が埋まってたんで、もしかしたら、そうなんじゃないかと思って」


 電話に出た女の人が、「ごめんね。急いで行くから、〇〇公園で待っててくれない?」と言うから、俺は引き返えすことにした。

 家にも電話して母親にも事情を説明した。


 母親もしばらくして自転車でやって来た。

 息子が何かしでかすと、近所で悪い評判が立つからだ。


 俺は公園に穴なんか掘って、と母親に怒られた。

「でも、ちゃんと元に戻してるよ」

 俺は言い訳した。


 しばらくして、車がやってきた。白いブルーバードだ。

 俺と同じくらいの小学生2人と、父親母親が揃っていた。


 俺はドヤ顔で、その人たちに犬がいた場所を教えた。

 そして、持っていたスコップで土を掘った。


 すると、茶色い毛が出て来たので、子供たちは「ラッシー!」、「やだ!」と次々に悲鳴を上げた。どうやら、毛の色ですぐにわかったらしい。

 やはり飼い主はよく犬をわかっている。

 俺はそれ以上は掘りたくなくて、おじさんの方を見た。


「多分、そうだと思う」

 お父さんは泣いていた。俺は言わなければよかったと後悔した。

 犬が死んでることを知らなかったら、この家族は、犬がどこかで生きているという希望を持つことができただろう。

 俺はうちの犬に愛着がなかったから、余計に気の毒になった。

 そこの犬、ラッシーは家族に愛されていたんだ。


 そこにいたお母さんが、俺に図書券を渡してくれた。

「教えてくれてありがとう」

「いえ。そんな何だか申し訳ないです・・・こんなことになってしまって」

 母は頭を下げた。

「毎日、何時間もこの子を探していて、、、でも、全然見つからなかったから、見つけてあげられてよかったです」

 その女の人は目頭にハンカチを当てて泣いていた。

「でも、どうしていなくなったんですか?」

「朝起きたら、首輪が取れてて」


 どうやら犬は飼い主から逃げ出して、その後、殺されたみたいだった。

 でも、犬っていうのは一時的には逃走したとしても、家に戻るんじゃないだろうか。だから、最初から殺す目的で、連れ出されたんじゃないのか。


「殺されたんだ」

 俺は言った。

「その辺にウサギとか猫もいたんだよ」

「え?それ本当なの?」

 母は驚いて尋ねた。

「うん。動物の死体がいっぱいあったよ」

 誰かが動物を殺して、そこに埋めているんだ。


 その犯人を見つけたやろう。俺は誓った。

 夜に行って犯人を捕まえようと思ったが、親に止められて出かけられなかった。

 「動物を殺すような人なら何をされるかわからない」と、母は言った。

 俺は妙に納得した。

 

 それからすぐ、その公園には『動物の死がいを埋めないでください』という立て看板が立てられた。

 

 今だったら誰がやったか犯人を捜すだろうが、俺が子供の頃は動物を殺しても大した罪にならなかったのだ。だから、殺したことよりも、腐る物を遺棄した方に焦点があてられた格好になった。


 今は動物を虐待したり、殺したりすると「五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する」となってるけど、昔は、「3万円以下の罰金又は科料」にしかならなかった。だから、警察も特に何もしなかったようだ。


 動物を殺して埋めていた人は、その後どうなったんだろう。

 ある殺人犯は「子供の頃は虫や動物を虐めて殺していました」と言っていた。それがやがて、より大きな生き物、たとえば「人」になっていたとしてもおかしくない。

 

 むしろ、それが自然な流れだ。

 たぶん、どこかで人を殺めているだろう。

 俺はそう思っている。


 


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