病院(おススメ度★)
人間は不確かなものを恐れる。
目の前の弱っている人、老人、病気の人は我々に恐怖を与える。
死を連想させるからだ。
数年前、会社の同僚が入院したから、俺はお見舞いに行った。仕事をちょっと早く上がったけど、着いたのは6時半くらいだった。ちょうど夕飯時だったと思う。そこはコロナ前、8時まで面会できたんだけど、土日行くのが嫌で平日にお邪魔した。
病室は男ばっかりの6人部屋で、同僚は片側の真ん中のベッドにいた。
隣のベッドに青白く痩せていて、具合の悪そうな人がいた。年齢は40代でまだ若い。自分とあまり変わらない。白に深緑色の格子のパジャマを着ていて、口元をゆがめながら寝ていた。今考えてみると、カーテンを閉めていればよかったと思うのだが、起き上がれないのかもしれない。大部屋でカーテンを閉め切っていると、余計に閉塞感があるものだ。
その人がどんな病気かなんてその場で聞くことはできなかった。病棟に行くと、お年寄りだけでなく、若い人が結構入院している。誰がいつ病気になるかわからないと思う。
ある日突然、落とし穴に落ちるみたいに、病気が発覚する。そして、医者に入院が必要だと告げられる。本人はショックだし、周りだってそうだろう。入院する人がいると、心から早く良くなって欲しいと思う。
俺は翌日、知人にメールを送った。
『隣の人って、何で入院してるか知ってる?』
『糖尿じゃなかったかな』
糖尿って、苦しいっていうような、わかりやすい症状があったかなぁと疑問だった。どちらかというと自覚症状がなかったと思うのだが。
『若いのに大変だね』
『若くないよ。多分80くらいだよ。寝たきりだし』
『違うよ、反対側』
『片側は空いてるけど。最初来た時から・・・やめろよ!』
『ごめん、ごめん。ちょっとびっくりさせようと思って』
俺は部屋を思い出した。同僚の左隣りはおじいちゃんだった。口を開けたまま寝ていて、痴呆症みたいに見えた。その人のことを言ってたんだろう。
右側に誰もいなかったなんて嘘だ。俺は確かに40代くらいの男性を見た。あの人は確かにいたと思う。病院に亡くなった人が浮遊霊になって漂っていると言うなら、数えきれない人がいるだろう。病院はそういう所だからだ。
俺は怖くなって、もう同僚の見舞いに行くのをやめた。俺は家族でもないし、彼も俺が来なくても何とも思わないだろう。
数日後、同僚からメールが届いた。
『看護婦さんに聞いたけど、ちょっと前に俺の隣に若い男の人が入院してて、急に心臓止まってなくなったって。霊感あるんですか?って言われたよ。何が見えたんだよ!』
『白っぽいパジャマ着た40代くらいの人』
『聞かなきゃよかった。めちゃくちゃ怖い』
同僚には何も見えなかったらしいが、その後は怖くて仕方なかったそうだ。
彼は今もいると思う。同僚が退院してからもずっと。
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