ホラー・ショート・ストーリーズ

電車

　電車って怖い。住むところは選べるけど、駅や電車の中は不特定多数の人が乗っている。

　あまり好きじゃない路線は、申し訳ないけどJ〇の路線。大学の頃や若い頃には考えたこともなかったが、今は色んな人が乗ってると感じてしまう。酔っ払って床に座り込んでいる、ホストっぽい若い兄ちゃんや、多分風俗の人かなという、超ミニスカでメンヘラっぽい感じの人がいたりする。午前中から、すごく眠そうで、1人なのにイライラが態度に出ている。

　山手線は新大久保、鶯谷、新宿、池袋、色んな駅がある。山手線のイメージダウンになってしまうが、前にそういう人がいたというだけ。

　新宿の風俗に行くくせにと思うが、日常では会いたくない。あくまで、そういう気分の時だけにしたい。

　俺も年を取るにつれてどんどん頑固、保守的になっていて、老害化してる証拠だ。

　先日、電車に乗ってたら、こっちをじっと見て来る若い女の人がいた。20歳くらいかもしれないが、不気味なので目をそらした。

　しかし、チラチラ見てしまう。すっぴんで服は20年くらい前のようなファッションだった。すっぴんでもきれいな人はいるけど、その人の場合は異様な雰囲気を増幅させていた。

　メンヘラっぽい人で、1人で乗っているのに、スマホを落ち着かない様子で触っているし、手をひらひらさせている。明らかに挙動不審。

　目を合わせないようにしてたが、間違いなく見られてる。ものすごく、負のオーラを感じる。

　隣に中1の息子がいたから、そっちを見てるのかとも思ったが、よく俺と目が合う。気持ち悪くて仕方がなかった。

　スマホを見ていたが、その間もずっとその人のことが気になってしまった。降りないかなと思っていたが、なかなか降りない。

　俺が気になっていると、女が立ち上がった。そして、つかつかと俺の方に歩いて来ると、目の前で立ち止まった。何事かと思って目を上げると、女は大きな声で言った。

「じろじろ見るのやめてください」

「すいません」

　俺はその人を見ていたことを認めてしまった。

「私の胸見てたでしょ？」

「見てません」

　俺は全力で否定した。

　電車の中は妙な空気になっていた。

　あんな女の胸なんか見ない。

　しかも、着ていたのは、別に普通のTシャツだったし、露出の多い服でもない。

　俺は恥ずかしくて、次の駅で降りた。

　子どもを連れてたのに、最悪だった。

　それからはその路線に乗らなくなった。