私は時々、変な夢を見る。


 小学校の頃の同級生の女の子が出てくる話だ。夢の中では、私も小学生で学校の教室にいる。床はまだ木だった。フローリングなんて気のきいたものじゃなくて、本物の木の床。雑巾がけをすると、手に棘が刺さってしまうこともあった。


 その女の子は私に鉛筆を貸してくれた。頼んでもいないのに。

 さも、感謝しろという感じだった。


 一応、「ありがとう」と言っておいた。

 夢の中の小さな出来事だけど、いりもしないものを渡されて不快だった。


 その子と一緒に遊んだ記憶はないし、話したこともほとんどないくらいだった。

 でも、夢の中ではっきりと「佐脇恵子」という名前が出てきた。私は小学校の卒業アルバムを確認してみた。そしたら、その名前の子が本当にいたことがわかったから驚いた。その人の存在なんて、記憶の片隅にもなかったのに。どうしてだろうか。


 もう、62歳なのに、小学校の頃の全然親しくない女の子が出てきて、私は困惑した。


 何だろう・・・何の用だろう・・・。


 妻に話すと、笑っていた。

 ”きっと今でもあなたのことが好きなのよ”


「大迷惑」私も笑った。


 それから、しばらくして私にハガキが届いた。宛名は佐脇恵子。

「小学校の頃、好きでした。思い出に会いたいのですが、お時間いただけませんか?」

 と、書いてあった。メールアドレスと電話番号が添えられていた。

 私も新たな出会いに興味があったから、妻に内緒で連絡した。


 佐脇恵子は年齢よりもはるかに若々しかった。50代前半に見えるほどだった。落ち着いた和風美女。話を聞いてみると、今は離婚して一人暮らしだそうだ。


「俺の連絡先、どうして知ったの?」

「妹さんにお会いする機会があって・・・たまたま」

 それでわざわざ連絡をくれたんだと、私は感激した。

 

 その日は2人でかなり盛り上がったから、そのまま帰るのが残念なほどだった。佐脇さんが「うちに寄って行きませんか?」というので、私は上がらせてもらった。

 玄関に入った時から、そういう雰囲気が出来上がっていた。私がどうすべきか迷っていると、彼女は振り返って私に抱き着いて来た。私は妻ともご無沙汰だったので、すっかり舞い上がってしまった。

「久しぶりに会った気がしないね」私は言った。彼女も「ええ。そうね」と笑った。


 私たちはそのまま深い仲になった。半年くらい付き合っただろうか。控えめでかわいい女だった。妻と離婚してほしいなんて、絶対に言わなかった。


 ある夜、妻が神妙な顔をして言った。


「あなた、浮気してるでしょう」

「してないよ」

「証拠がありますから。離婚してください」 

「浮気なんかしてないよ」

 私は弁明したが、彼女は探偵を雇っていて、私が彼女の部屋に入って行く時の証拠写真を入手していた。  


 私は潔く離婚して、恵子の方に行こうと決めた。彼女はきっと喜んでくれるだろうと確信していた。

 しかし、彼女にLineを送ったのに、返事が来なかった。既読にもならない。部屋を訪ねて行ったら、すでに引越した後だった。しかも、後でわかったのは、そこの住民は佐脇恵子じゃなかったってことだ。俺が佐脇恵子の実家に行って、彼女に会いたいと伝えたら、本人は昨年亡くなりましたと言われてしまった。


 私ははっとした。


 もしかしたら、妻が私と離婚したくて、佐脇恵子のふりをしてハガキを書いて、誰かにその人のふりをするよう頼んだのかもしれない。本当にそうかもしれない。でも、その前に、彼女が何度も夢に出てきたのは何故だろうか。それが不思議でたまらない。


 


 

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