記憶違い

 記憶違い。年を取るにつれて増えてきた気がする。

 40代後半から、自分の記憶に自信がなくなって来た。

 漏れがないように、予定はスケジュールに入れたり、メモしないと完全に忘れてしまうようになった。


 記憶っていうのは簡単に上書きされてしまうものらしい。

 だから、あの時、絶対こんなことがあったと思っても、それが真実とは限らない。

 警察での取り調べの時など、誤った情報を繰り返しインプットされると、自分があたかもそれをやってしまったかのように錯覚して、自白してしまうことがあるらしい。睡眠時間を与えられず取り調べを続ける時などは、自分の記憶の一部として取り込まれてしまうそうだ。


 たまにスマホを見ると、撮った記憶のない写真が残っていることがある。長年iPhoneを使ってるから、写真が膨大にある。いつか整理しようと思うのだけど、何万枚もあってやる気が起きない。ずっとiCloudのアップグレードに金を払い続けている。どっかの店で撮った料理の写真や風景。動画が残っていることがある。

 自分が撮ったのかもしれないが、全然、覚えてない。

 誰に会ったかも忘れてる。


 知らない写真は誰かからもらったものだろうか。

 俺に連絡を取り合う相手なんかいるのか?


 その中に、知らない男の子のビデオがある。

 どっかの公園でシャボン玉を吹いてて、それを子供が走って追いかけて潰していくというもの。

 まるで、蚊でも殺すように必死に追いかけている。

 狂気を感じる。

 にこりともしない。


 俺はその動画を延々と撮っている。

 何のために?

 俺は変質者なのか?


 その子が時々、夢に出て来る。

 俺が話しかけても何の反応もない。

 でも、すごくかわいい子だ。

 俺のことを上目遣いに見ている。

 でも、目線が合わない・・・。

 まるでガラスでできた人形の目のようだ。


 もしかして、自分の子供?

 俺に子供なんているのか?


 けっこう容量を食うけど、いつか思い出すかと思って消せないでいる。

 



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