浮気(エロ)

 妻が夫の浮気を知り嫉妬に怒り狂う。

 妻の浮気が発覚して夫は激怒。妻への復讐を決意する。

 どっちもTVドラマみたいだ。

 俺には関係ない話。

 ずっと独身で、彼女がいたことがないからだ。


 俺がもしこれから結婚出来たとしても、浮気しない自信は正直ない。

 俺という人間は病院にいたって看護師さんがきれいだとか、隣の患者の奥さんや娘がかわいいと思ってしまうからだ。

 これは年齢関係ない気がする。もてなかったら浮気のチャンスは減るだろうけど、相手がいる限り、浮気は成立するからだ。


 これは人から聞いた話だ。


 Aさんは80歳。


 仲のよかった奥さんを2年前に亡くして、サービス付き高齢者向け住宅に入居していた。略してサ高住。サ高住には、風呂の有無、キッチンの有無など、いろんなタイプがあるだろうけど、平たく言うと、マンションだけど介護サービスが受けられるという施設だ。Aさんのところは、キッチンとバストイレがついていて、家族が泊まっていくこともできるところだった。


 この年齢になると、働いて一人暮らしをしているような人もいれば、寝たきりで痴ほうになっている人もいる。


 Aさんはすごく元気だった。

 痴ほうも歩行も問題ない。

 女も大好き。


 施設に併設しているデイサービスで、きれいな女性と知り合い、交際するようにもなったそうだ。彼女はBさん。髪を黒く染めているから若々しい。若い頃はきっと美人だったろうという人だ。今まで結婚したことはないらしい。もっと早く出会っていたら、プロポーズしたのにと言って、AさんはBさんを笑わせた。


 Aさんは、デイサービスがない日はBさんの部屋に遊びに行くようになった。

 はっきり言って、デイサービスなんかいらない人たちだ。

 人と交流したいとか、工作をやりたいとかそんなので参加してる人もいるみたいだ。介護保険をそんなことに・・・と思うかもしれないが、まあ、それを永遠に続けられるわけじゃないからいいんだ。俺の金じゃないし。


 さて。お年寄りの場合は、子供ができる心配がない。

 だから、2人は心ゆくまで楽しむことができた。

 本当は入居者同士の個室の行き来は禁止なのだが、ヘルパーさんたちも仕方ないと思っていた。


 Aさんは、夜遅くまでBさんの部屋に入り浸るようになっていた。

 夕飯もそこに持って来てもらって食べた。

 そこのサ高住は割高のせいか、空室が多かったから、Aさんがお泊りしていても文句を言われることはまったくなかったのだ。

 2人一緒だから、ヘルパーさんも気味悪がって巡回に来ないし、あちらの負担も減る。


 ある朝、Aさんは自室に朝帰りして、鼻歌を歌いながらシャワーを浴びていた。Bさんというのは出産経験がないから、体型が崩れていなくて若々しい・・・。きれいだったなぁ。思い出してにやにやする。


 すると、脱衣室から女の人の声がした。

「あなた、ここにタオル置いておくね」

「うん」

 Aさんは髪を洗いながら返事をした。


 一瞬手が止まった。

 あれ・・・今のは死んだかみさんの声じゃないか。

 Aさんは慌てて脱衣室に出た。洗濯機の上にバスタオルが2枚あった。Aさんはすでに1枚タオルを持って来ていたが、足りないと思ったのか・・・1枚増えていた。奥さんはおせっかいな人だった。こちらがいらないと言っても、自分がいると思ったらカバンに入れるような人だ。


「やばい。浮気がバレちゃった・・・」

 Aさんは情けなくなって、しばらく浮気を封印することにした。

 そしたら、Bさんはすぐに別の人と交際を始めていたんだ。


「つまんない人だったんだねぇ。病気をうされてないか心配だよ・・・」

 Aさんはぼやいた。

 

 Aさんはそれからは、いつも一人で夕食を食べて、風呂に入って、寝てという生活を送っているそうだ。人と交流がないと惚けやすい。

 でも、今は死んだ奥さんが部屋に来るから寂しくないそうだ。

 ヘルパーさんが部屋に行くと、いつもAさんが喋っているそうだ。 

 そういう人は多いからと、ヘルパーさんも気にしていない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る