事故物件に住んだ一家(おススメ度★)
俺は大島てるさんのホームページを見るのが好きだ。
都心は事故物件が多い。
理由は住んでいる人が多いこと。
高層マンションがあると、飛び降りがあるからだ。
郊外のアパートなどは、孤独死が多い。家賃が安めだから、高齢者が多いのだろう。孤独死なんて普通に起きている。
自然死を怖がっていたら、病院に入院できないだろう。
そう言えば、俺もマンションからの飛び降りの現場を見たことがある。
男の人がビルから飛び降りた後、俺が通りかかった。
すでに、警察と救急車が来ていて、もう助からないであろうその人のために、必死に心臓マッサージで蘇生を試みていた。
その緊迫した現場を見ると、見ず知らずの人の命を助けるために、どれだけ多くの人が動いているかと思い知らされる。
これは、前の会社で同僚だった人から聞いた話だ。
本人ではなく、その人の知り合い(Aさん)の話だそうだ。
Aさんは、夫婦と幼稚園の子供1人のファミリーだった。
どうしても、都内の某区に住みたがった。
某区は文教地区で、官僚、医者、弁護士などが多く住んでいた。
そいういう所に住んでいれば、自然と勉強するようになり、いずれは東大に。と思ったようだった。
しかし、分譲マンションは高過ぎて手が出ない。古い物件を買うと、すぐに建て替えの話になって、費用を負担できないかもしれない。
いくつもの不動産会社に割安の物件を探して欲しいと頼んでいたが、誰も動いてくれなかった。明らかに予算が足りないからだ。
しかし、ある担当者が『理想通りの物件がありました』と、嬉々として連絡をくれた。夫婦は内覧してすぐに気に入った。値段も割安でお得感があった。
しかも、内装も予めリフォームされていた。
奥さんが気に入って「ここにしましょうよ」と即決だった。旦那の方もそこだったら、ローンを返せなくなっても、あまり値下がりしないで売れるだろうと思った。
2人がそこを気に入った後で、担当者は言いづらそうに広告を見せた。
「広告に、心理的瑕疵ありって書いてますが、お気付きですか?」
「ああ、これ。自殺とかがあったんですか」
「はい。ここは奥さんが旦那さんを刺してしまったという・・・刺殺事件があった所なんです」
「刺殺ってことは、亡くなったんですか?」
「正確には、病院で亡くなったそうです」
「でも、いいんじゃない。絶対こんなに安く買えないと思うから」
奥さんは言った。
「幽霊が出たら売ればいいんだ」
旦那も笑いながら言った。
Aさん一家は一人息子が小学校に上がるタイミングで引越すことができた。
残念ながら国立の小学校はくじ引きで落ちてしまったので、公立の小学校に行くことになった。
公立でも、その地域は、親が医師や弁護士、会計士などの家庭が多かった。教育熱心な家庭ばかりで、勉強のできる子供が多かった。Aさんの奥さんは理想的な環境だと喜んだ。
しかし、Aさんの息子はあまり優秀ではなかった。小学校1年から塾に行かせていたが、行っていない子にも負けるほどだった。さらに、親の出身校・勤務先・年収なども平均を下回っていたので、親しい人ができなかった。
合わない環境には住まない方がいい、と俺は常々思う。俺も独身だから背伸びして千代田区にマンションを買ったりしたが、子供がいたら多分、山手線の内側には住めなかったと思う。年収以上に、俺のスペックが足りないせいだ。
さらに、Aさんは住んでいるマンションが事故物件だったので、そこまでして住まなくても・・・と陰口を言われるようになっていた。
奥さんは次第に心を病むようになってしまった。
勉強をやろうとしない息子を怒鳴り散らし、夫婦の仲は険悪になった。
「〇〇区になんて住まなきゃよかったのに。今から引っ越そう」
旦那は言った。
「絶対、嫌。恥ずかしい!じゃあ、どこに住めっていうよ!」
「別に練馬とかでいいじゃないか」
「いやよ。会社の人も住んでるし」
「だから何だよ。もっと普通の所に引越そう」
「あんたの稼ぎが少ないからこういう風になってるんでしょ」
「じゃあ、自分で稼いで来いよ。楽な仕事してるくせに」
毎晩こんな喧嘩を繰り広げていて、近所ではすっかり有名になっていた。
ある夜、夫婦の言い争いは白熱して、奥さんは旦那を刺してしまった・・・。
奥さんはすっかりノイローゼの状態だったのだ。
旦那は命に別状はなかったが、夫婦は離婚して、マンションは売りに出された。
ごく普通の中古マンションとして・・・。
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