一家心中(おススメ度★)

 小学校の時の話だ。

 俺の同級生が亡くなった。

 女の子で、荏原〇〇さん。


 母子家庭の子で、お母さんと子供四人で心中してしまったのだ。

 その子の家は風呂がなかったみたいで、汗臭くていつも同じような服ばかり着ていた。

 夏でも冬の恰好をしていた。

 多分、季節に合う服がないからだろう。


 給食以外は食ってないという噂もあった。

 そのせいか、あまり友達がいなかった印象だった。

 いつも一人だった。


 俺はそんなに社交的でもないから、その子とほとんど喋ってことがなかった。


 ある朝、学校に行くと、先生がいきなり「昨日の夜、荏原さんが亡くなりました」と言った。「みんなこれから知るかもしれないので言いますが、お母さんと兄弟たちと一緒に亡くなりました。無理心中でした。」


 感極まってなく女の子もいた。

 じゃあ、生きてるうちに仲良くしてやればよかったのに。

 俺は思った。


 俺は荏原さんに何かしてやれないかと思って、家に帰って母親に相談した。

 そして、母親と一緒にお花を置きに行った。

 花なんか置いてやっても何の意味もないけど、女の子だから花は好きなんじゃないかと俺は思った。


 その子が住んでた市営住宅に行くと、警察の人がいて、傍には寄れなかった。


 母は立ってる警官に、

「子供が同級生なので、お花を上げたくて」と言うと、その人は同情して「いいですよ」と中に入れてくれた。


 俺は足がすくんだ。

 

 野次馬がいっぱいいたけど、俺たちだけロープの中に入れてもらって、花を供えた。


 心の中で、「何もしてあげられなくてごめんね」と言った。


 頭の中に、その子の悲しそうな顔が浮かんできた。

 狭い部屋の中で家族と向かい合っている顔を想像した・・・。

 死にたくなかったんじゃないかな。


 俺は何とも言えない気持ちになって泣いてしまった。


 その夜、俺は夢を見た。


 俺は荏原さんちの家の中を見ていた。

 ちゃぶ台があって、お母さんと子供たち4人が座っていた。


 そこに、怖そうな中年の男が入って来てた。

 手には包丁を持っていた。

 その包丁で子供たちをいきなり、刺し始めたのだ。


 子供たちは逃げ回って「痛い、痛い」、「ごめんなさい」と言って泣いていた。

 男は子供たちを投げ飛ばしたり、追い回したりして、子供たちはみな動かなくなった。


 お母さんは目をそらして、それを見ないようにしていた。


 そして、最後にお母さんは男に背中を刺された。

 お母さんは自分が刺されるとは思っていなかったようで、驚いた顔で口から血を流していた。


 次の朝、俺は夢に見たことを母親に言った。

 すると、母親は「夢の話なんか本当なわけないでしょ。外で絶対行っちゃだめだよ」と怒った。


 俺はあれは心中ではなくて、全員殺されたんだ。それを一家心中に見せかけたんだ。と思った。


 しかし、誰にも言えなかった。


 それから、しばらくして犯人が父親だったと新聞で知った。

 俺は本当に意気地なしだ。

 荏原さんに今も詫び続けている。

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