水滴(おススメ度★)

 今日、女と外を歩いていた。

 顔にぽつんと雨が落ちて来た。


「あ、雨だ」


 俺は言った。

 すると、女は「今日は雨降らないよ」と言った。

 すぐに携帯で今日の天気を調べてくれたが、晴れの予報だと笑っていた。


 俺にだけ、いつも雨なのか水滴なのかわからない物が落ちて来る。


 この間も、別の女と一緒の時。

 狭い路地裏を歩いていたら、上から水を撒かれた。


「何だこれ!」


 俺は怒った。

 女は「どうしたの?」と不思議そうに聞いて来た。


 水が落ちて来た辺りは、事務所ではなく、人が住んでるような感じだった。

 ビルには窓の外に、格子のような金具がついている。

 もしかしたら、植木に水でもやろうとしたのかな。俺は思った。

 実際は、植木なんかなかった。


 こんな風に、なぜか俺だけに雨がポツンと落ちて来る。

 ずっと不思議だった。


 最近、駅の構内を歩いていたら知らないおばさんに声を掛けられた。

「ねえ、あなた」

 70くらいの人だった。

 その人は下町の商店街で売ってるような、安っぽい服を着ていた。

 俺にそんな知り合いはいない。

 でも、親切そうで怪しい感じではない。


 その人は、心配そうに言った。

「あなたの上に、ずぶ濡れの女の人が浮かんでるんだけど。

 心当たりない?」

「え?」


 俺は昔、自殺する前に俺の家に尋ねて来た女の人のことを思い出した。

「はい、あります」

「その人があなたのことを連れて行こうとしてるから、絶対水場には行っちゃだめよ。海とか、プールとかも」

「はい」

 俺は神妙な顔をして返事をした。


「ごめんなさいね。急にこんなこと言って。気持ち悪いでしょう」

「いいえ。絶対行きません」

「本当に気をつけてね」


 おばさんは心配そうな顔をして何度も頭を下げて去って行った。


 俺は、頭の上の女の人がどうしたらいなくなるか、そのおばさんに聞けばよかったと思った。

 だから、駅に行った時はその人に会えないかといつも思うのだが、今のところ会えていない。


 あの女の人は、今も時々、俺の顔に雨を降らしている。

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