家庭内別居(おススメ度★)
物心ついた時から、僕の両親は不仲だった。2人が喋っているのを見たことはほとんどない。2人は寝室を別にしていて、僕は父と寝ていた。本当は母と寝たかったけど、父は怒ると怖いし、僕を黙って寝室に連れて行くから従うしかないと幼いながら思っていた。
父親はサラリーマンだから朝会社に出かけないといけないのだが、僕を保育園に送ってから会社に行っていた。母は朝は起きて来ない。
「ママは?」僕は尋ねた。幼いながらも、何となく聞きづらい雰囲気を感じ取っていた。
「お母さんはうつ病なんだよ」と、父親は言った。
僕はうつ病っていうのは寝てないとダメな病気なんだと思った。実際そういうものだろう。母は時々、リビングでソファーに座ってテレビを見ていることがあった。でも、食事の支度も、掃除も、洗濯も何もやらない人だった。うつ病だからだと思っていた。それ以外は布団で寝ている。僕が母の近くに行くと、母は「さあ、おいで」と言って僕を抱きしめてくれた。柔らかくていい匂いがした。お母さんには毎日会っていた。一人で寂しそうだったからだ。
やっぱりパパとママには仲良くしていて欲しかった。
普通の家はお父さんとお母さんと子どもが一緒に出掛けたりするけど、僕は公園に行くのも父親とだけだった。すごく羨ましかった。
お母さんに「3人でどっか行きたい」と言うと、「ママは出かけられないの」と寂しそうに答えた。きっとうつ病で外に出られないんだ。僕はうつ病を体の病気だと思っていた。
そのうち、僕は小学生になって、学童に入るようになった。夕方6時に学童が終わった後、家に帰っても、まだ父親は帰っていない。電気も消えている。母親はいつの間にかいなくなっていた。
僕は父親に母がどこに行ったのか尋ねた。
「お母さんはずっと病院に入院してるんだよ」
「いつから?」
「お前が1歳くらいの頃からだから、会ったことないだろう?」
「会いたい」僕はびっくりした。家にいたはずなのに、父親には見えていなかったらしい。
「無理だよ」
「一回会ってみたい」
僕は食い下がった。
「やめた方がいい。お母さんはお兄ちゃんを殺して、病院に入院してるんだから。お前も殺されるかもしれない」
父親によると、母は育児ノイローゼになって、3歳だった兄を殺してしまったそうだ。兄は僕が産まれたことで、赤ちゃん返りしてしまい、それに苛立った母は兄を虐待していたそうだ。
僕が産まれたせいで、兄は亡くなり、母は病院に入院している。僕はそれからは毎日、自分が生きていいのかと考えるようになった。
父は僕が中三になった頃、再婚すると言い出した。僕はいたたまれなくなって、寮のある高校に入学した。それからは一度も実家に戻っていないし、母にも小学校に入って以来会っていない。いつか母に会いに行ってみたい。
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