居留守

 私はよく居留守を使う。

 家にいる時じゃなく、会社にいても居留守を使う。

 出るのが面倒臭いからだ。

 会社の方が飛び込みのセールスがやって来る。

 自宅に来るのは宗教とNHKだけ。


 セールスの人に会って、「今、間に合ってますとか」、「最近買ったばっかりで」と言うのが苦痛だ。セールスが大変なのは十分わかってる。売れないと、どうしようと焦る。それがよくわかるからだ。


 私は某企業の総務をやっている。

 派遣でもう2年経つ。

 あり得ない職務怠慢だろう。

 

 この間も居留守を使った。

 インターホンに映っていたのは、スーツ姿の若い男だった。

 そんな取引先はないとすぐにわかる。

 多分、保険、ウォーターサーバー、人材紹介、研修プログラム、株、銀行、レンタカー、複合機、その辺の営業の人だろう。


 私は居留守を使った。


 その後、警察から電話がかかって来た。


「扉の所に”一酸化炭素発生中”っていう紙が貼ってありますけど、中で何かしてるんですか?」

「え!そんなことありません」


 警官は苦笑いしていた。

 私は焦って外に出てみた。

 そこには警察と、他のテナントの人が不安そうにこちらを見ていた。


「練炭自殺してるのかと思いましたよ」


 さっきの男が嫌がらせで紙を貼って行ったのか、それとも前の人が貼ったのかはわからない。さっきの人はもしかしたら教えようとしてくれたのかもしれない。


 それからしばらくして、会社に段ボールが届いた。  

 箱を開けるのは総務の仕事だ。


 中身を取り出して確認する。私用で使う人がいるかもしれないからだ。


 私が箱を作業台に置いて、開封した途端・・・。

 

 ボン!!!!!


 という鈍い音がして、私の顔が吹き飛んだ。

 正確に言うと、頭は大丈夫だったが、顔がなくなってしまった。

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