古い写真(おススメ度★)

古い写真は捨てられない。

昔はデジカメがなく、フィルムカメラだったから写真は現像してアルバムに貼っとくものだった。

母も写真をたくさん持ってて、昔を懐かしがってアルバムをよく見ていた。

母が亡くなった時、兄の奥さんから大量の写真が送られて来た。


でも、母が20歳くらいの若い頃の写真がちょっとあるだけで、それから子供が生まれるまではほとんどない。

俺の母親が最初の結婚をした1950年代は恋愛結婚より、お見合いの方が多かった時代だ。


母親は20代半ばで見合いして一度結婚したけどすぐに死別。

その頃の写真はなく、その当時の親族との付き合いはもうない。

子供がいなかったからだろう。

最初の結婚の写真は、再婚した時すべて捨ててしまったんだろうと思う。

結婚相手の写真がないとかあり得ないから。


母は最初の旦那を愛していなかったんだろうか。

最初の旦那がちょっと気の毒に思えてくる。

国鉄職員だったと聞いた気がする。

でも、どんな人だったのかちゃんと聞いたことはない。


母は30代後半で父と再婚した。

こちらも近所に仲介してくれた人がいたそうだ。

持つべき物はご近所か。


最近、写真をデータ化することを思いついた。

正月暇だったから、写真を取り込んでデータ化。

俺の写真があんまりなくて、兄貴と父の写真ばかりだ。

俺は家族とあまり一緒にいなかったからだろうな。


うちは親戚づきあいもあまりなかった。

父親が早く亡くなったのと、親せきがみな県外に散っていて近所に住んでいなかったからだ。


俺が子供の頃の写真はみんな捨てた。

家族がいないし、見る人ががいないから断捨離。


兄貴のは兄貴の奥さんに送ろうと思って仕分けして、親だけの写真はスキャンしてデータにした。

うちの親はあまり旅行とかに行っていなかったな、と思う。

父親が忙しく、休みが日曜しかなかったからだ。

昔は今みたいに有休を一週間とか取ってなかったから、長い休みは正月だけだった。


写真のデータ化は面倒くさいと思ったけど、結局1時間もかからなかった。


それから、母が持ってた手帳を見てみた。

間に写真が挟まっていた。

白黒写真で若い男が写っている。

角刈りのような頭で、笑顔の写真だ。

坂本九さんに似ていた。


たぶん、最初の旦那さんだと思う。

一応、こっそり手帳に入れて取っておいてたんだ。

あ、よかった。

そうでなかったら前の旦那さんが浮かばれない。


前の旦那さんは母親が死ぬのをあの世でずっと待ってただろう。

母親は死んだあと、前の旦那さん、俺の父と、どっちに行ったんだろうかと思う。


供養のために一人目の旦那の写真、母、父の写真を並べて飾ってみた。

男二人、あちらで母を取り合っているだろうか。

それとも、年を取った母を見て、一人目の人はがっかりしただろうか。

父も二十年以上前に亡くなっているから同じかな。


思いがけず争いの火種を作ってしまったようで申し訳ない。

これも両親に対する俺のささやかな復讐だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る