こっちを見てる

 俺が会社に行こうと思って、毎朝駅のホームに立っていると、向かい側のホームに不気味なオンナが立っている。なぜか、俺のことをじっと見ている。


 年齢は37くらい。髪はストレートだけど、パサついて毛先が茶色くなっている。色白で、人によっては美人と言うかもしれないけど、無表情。俺は無表情の人は苦手。ブスでも笑ってる人の方がいい。服は、いつも、薄い紫と青の中間のような色のカーディガンに花柄のワンピースを着ている。


 俺は知らない人にジロジロ見られることが多い。よくイケメンだと言われる。通勤の時に、いきなりラブレターをもらったこともあるくらいだ。だから、その人もそんな感じで俺のことがタイプだと思って見ているのかと思っていた。


 でも、目が笑ってないし、瞬きもしないから怖かった。俺はいつも先頭車両に乗るから、その女は反対ホームの最後尾の電車に乗るんだろうと思っていた。


 俺は目を逸らす。


 俺は時間にルーズで20-30分の幅で色々な電車に乗るんだけど、その女は何故かいつもいる。俺を毎朝見送って会社に行くのかな?と思っていた。学生の時はそういう人もいた。別に家まで着いてくるとかじゃなければ、害はない。


 でも、精神的に落ちてる時なんかは、不気味に感じで、真ん中くらいの車両に乗ろうと思って違う所にいると、女はやっぱり反対側のホームに立ってる。まるで、好きな相手をずっと探してるような感じなんだろう。しかし、いつも目の前に立たれていると、気味が悪い。俺は段々病むようになって来た。


 だから、ある朝、直接文句を言おうと思った。反対側のホームに行くには、階段を降りて行かなくてはいけないから、結構時間がかかる。もしかしたら、電車に乗ってしまうかもしれない。


 俺は走った。そして、ハアハアいいながら女がいた反対側のホームにたどり着いた。女はやっぱりいなくなっていた。俺と直接顔を会わせる勇気がないのか、電車に乗ってしまったのかは知らない。


 〇〇行の電車が参ります。黄色い線の内側に下がってお待ちください。


 アナウンスが流れた。


 あ、戻らなきゃ。そう思った瞬間だった。


 ドンっと背中を押された。俺はホームに倒れ込んだ。周りの人の悲鳴が聞こえる。

 

 それと同時に、俺の脳裏にこれまでの出来事が一瞬でプレイバックされた。

 あ、あの女・・・。

 俺は思い出した。


 もう、10年くらい前だ。

 前の会社の同僚で、俺が嫌がらせをしていると言っていた女だ。

 その人は、ミスが多くて困ると、俺は上司に愚痴っていただけだ。

 直接話したことはほとんどない。

 精神的におかしいから、ずっとシカトしてた女。


 何で?

 俺、何もしてないのに・・・。

 答えろよ!俺が何したっていうんだよ!

 それが俺の意識の最後だった。

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