住民票(おススメ度★)

 俺は寂しい一人暮らしだ。


 しかし、知らない間に誰かと一緒に暮らしていたらしい。

 そのことに気が付いたのは、ごく最近のことだ。


 何か月か前に、区議会議員かなんかの選挙があった。

 俺はあまり選挙に行っていないから、うろ覚えだ。


 うちに選挙のお知らせが2通届いた。


 俺の分と、誰か知らない人の分だ。


 俺は誤配か登録ミスだと思って、ハガキに宛先人不明と書いてポストに投函した。

 その時はそれで終わった。


 しばらくして、コロナの予防接種のお知らせが届いた。

 先日と同じ人の名前が入っていた。


 苗字が違うし、一体誰なのかと思ったが、それも宛先人不明で返送した。


 確か、、、


 石坂さんという名字で女だった。


 石坂〇子


 誰かまったくわからなかった。

 名前の印象からして同世代だ。

 もっと今風の名前だったら、俺も若い子と同棲してるみたいで、嬉しかったかもしれないが、テンションの下がる名前だった。


 近所に誰が住んでるか知らないので、近所の人だろうと思っていた。

 もしかしたら、同じ住所に家が二つあるのかもしれない。


 俺は何とも思わなかった。


 今年になって、警察が訪ねて来た。


「石坂〇子を知ってますか?」

「知りません。でも、よく郵便物が間違って届くので・・・その人がそんな名前だったかもしれません?」

 

 俺は余計なことを言ったかなと思いながら、その人が何というか待っていた。

 

 警察によると、うちに住所を置いている女が殺人事件を起こしたという。


 俺は寝耳に水だったので、「どういうことですか?」と説明を求めた。


 石坂〇子という人が、スーパーで人を刺したそうだ。

 警察が言うには、


「容疑者に心辺りはありますか?」

「いいえ、まったくありません」


 俺は無関係だった。

 しかし、俺は職質されたこともないので、ちょっとワクワクしたのは事実だ。

 

「スーパーで人を刺したっていうのは、どこのスーパーですか?」

 聞いてみると東京の〇〇区のどっかだった。

 俺はテレビを見ないので知らなかった。


「容疑者が言うにはあなたとは男女関係にあったそうですが」

 俺はそんな相手は思いつかなかった。

「わかりません・・・一回だけとかならあるかもしれませんが」

 俺は余計なことを言ってしまった。

 警察の人は無反応だった。


「住民票を置いて一緒に暮らしてたと言ってます」

「いいえ。私は引越してからずっと一人暮らしです」

 俺は否定した。


「ここに住んでから彼女がいた時期もありますが、ずっと一人でした」

 警察が険しい顔をしているので、俺は焦った。

 一介のサラリーマンが殺人事件に関わっているはずなどなかった。

「何が何だか全然わかりません」


 なぜか俺の家が家宅捜索を受けた。  

 結局わかったのは、女はうちの駐車場の物置で寝起きしていたということだった。

 駐車場には階段下のデッドスペースを利用した物置があった。


 確かに人一人がいられるくらいのスペースがある。

 俺は車も自転車も持っていなくて、内見の時以来一度もそこを開けたことがなかった。


 警察の人に頼んで見せてもらうと、物置の床には段ボールが敷き詰められ、その上に毛布が敷いてある。その上に寝袋を置いて寝ていたようだ。

 ちょっと糞尿の匂いがした。

 まるでホームレスの小屋のようだった。


 おかしなど、食べ物が寝袋の周りに置かれていた。

 しかし、きれい好きだったようで、寝袋はきちんとたたまれていた。


 うちの駐車場には、洗車できるように水道が引いてあり、コンセントもあったから夜中携帯を充電したりしていたようだ。

 

 俺はそこに人がいることに全く気が付かなかった。

 その女がいつ頃からそこに住んでいたのかは知らない。

 逮捕前に俺が間違ってドアを開けていたら、刺されていたかもしれない。


 その女はやっぱり前の住人だった・・・。

 浮気されて発狂した奥さんだった。 


 


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