寝たきりの花嫁(おススメ度★)
これは知り合いから聞いた話だ。
10代の頃に事故にあって以来、10年近く意識が戻らない女性がいた。
仮にAさんとしよう。
Aさんは病院で寝たきりの生活を送っていたが、すごく綺麗な人だった。
肌が白くて唇がピンク色。
何もしなくても化粧しているみたいに見える人だった。
時々、目を覚まして天井をじっと見ているのだが、少女漫画みたいにまつげが長く、目が大きくて、事故に遭わなかったら宝塚音楽学校を受験したら良かったのに、と思うくらいの美人だったそうだ。
実際、Aさんが元気な頃には、芸能事務所からのスカウトもあったとか。
彼女はもう何の感情もないように、一切反応を示さなかったし、親や友達が尋ねて来てもわからないようだった。
病院の看護師さんはA子さんにテレビを見せたりしていたが、内心ではきっと無駄だろうと思っていた。
ある男性看護士Bさんが、Aさんに恋をした。
Bさんは恋人いない歴=年齢という雰囲気の静かな人だった。
Bさんは絵が得意で、Aさんの似顔絵を描いてAさんに見せたり、話しかけたりしていた。
Aさんから見えるように、ベッドに上がって絵を天井に貼った。
それを見た他の看護師は非常識だと批判したが、その絵はかなりうまく描けていて、Aさんが元気な頃の生き生きとした表情を再現しているようだった。
祖母も泣いて喜んでいた。
Aさんには親族が祖母しかいなかった。
父、母、兄は、Aさんが事故に遭った時に、不幸にも亡くなってしまったからだった。
Bさんは仕事が終わると、いつもAさんの元に行った。
手を取って、消灯まで話しかけた。
まるで彼女のように思っているらしく「Aちゃん、今日は顔色がいいね」とか「今日はこんなことがあったよ」などと話しているので、他の患者や看護師は気味悪がっていた。
非番の時も、BさんはわざわざAさんの様子を見に行った。
その時、祖母Cさんとかち合ってしまうこともあった。
職場では敬遠されていたBさんだが、祖母Cさんは、Bさんに好感を抱いていた。
誠実そうで優しかったからだ。
Bさんもそれに気が付いて、割とすぐ「Aさんと結婚したいと思っている」と打ち明けた。
Bさんがすぐにそう告白したのは、Bさんの行動が病院内で問題になっていたからだ。首になる前に、早く親族の同意を得たかったのだ。祖母Cさんは、自分が死んでしまった後のことを心配していたので、Bさんの申し出をなぜか受け入れてしまった。
Bさんは祖母Cさんと一緒に婚姻届けを作成して、役所に提出した。
こうして、Bさんは晴れてAさんの夫になることができた。
Aさんは個室に移り、Bさんが時々そこに泊るようにして結婚生活をスタートした。
Bさんは献身的に介護を続け、Cさんと3人で散歩に出かけることもあった。
さらに、車で花見に連れて行ったりと、3人は家族のようで幸せそうに見えた。
Bさんは奇跡が起きて、Aさんが意識を回復しないかと願い続けていた。
Aさんが事故に遭って、10年ほど経っていたから、植物状態の人としてはかなり長生きだった。
Bさんたちが結婚して1年ほど経ったある日。
運命の日が訪れた。
看護師がAさんの血圧と体温を測りに来た時、Aさんはぷるぷると震えていたかと思うと、ふり絞るような声で「た・す・け・て」と言った。
そして、「あの人は私の夫じゃない。警察に通報して!」と叫んだ。
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