話し声

 うちは一戸建てなのだが、3階にいると2階の声が聞こえる。逆に2階にいて、3階の声が聞こえるというのはあまりない。


 俺は中学生の息子と2人で住んでいるのだが、息子は2階でゲームしたりしていることが多い。息子は時々、誰かと話していることがある。


 心配で覗いてみるのだが、ゲームしながら、Lineなどで通話している様子もない。ただ、大声で叫んだり、喋ったりしている。


 俺はこっそり下に降りて行き、扉の影で見ていると、やつはテレビゲームをしながら喋っている。


「何やってんの?」

 俺は問い詰める。

「ゲーム」

「誰と喋ってんの?」

「喋ってないよ」

 彼は目を合わせないまま、ゲームをしている。俺は気持ち悪いなと思いながら、夕飯の準備をする。


 俺がいなくなるとまた喋り始める。

 妄想の中の友達と喋っているのか、独り言なのかはわからない。


 俺は3階に戻ったふりをして、階段で、息子の会話を聞いていた。


「お前、何やってるんだよ!」

「あそこの影に隠れてんじゃね?」

 別の男の子の声がした。声の感じが中学生くらいだ。

「やばい、やばい。死ぬ、死ぬ」

「やば、お前、早く行けよ!」

「無理だって!」

「早く!」

 なんだか2人でソファーに座ってゲームしているみたいだった。電話での通話ではなく、そこに誰かいるのだ。覗いてみても誰も見えない。しかし、声だけ聞こえる。


 俺は混乱してその場を離れた。


「やったー!!」

 その後に歓声が聞こえた。


 息子は放課後に遊ぶような友達がいない。

 俺はかわいそうになって、そのまま3階に上がった。親だからといって、妄想の友達まで禁止する権利はない。


 俺は息子とあまり遊んでやらなかった。不思議だけど、赤ちゃんの時から一人で遊んでいる子どもだった。もしかしたら、幼い頃からずっと遊んでいてくれたのだろうか。そう考えると、怖すぎる。

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