書けない
*汚い話になります。虫も出てきますので、ご注意ください。
先月末で会社を退職した。やめた理由は執筆活動に専念するためである。年収は千三百万くらいあったけれど、やはり、普段仕事をしているとなかなか執筆に充てる時間がない。正社員で三十年近く働いていたから、限られた分野のことしかわからないし、旅行にも行かないから、ネタは会社のことしかない。しかも、独身で家族もいない。ペットも飼っていないし、友達ゼロで、親族とは絶縁状態だ。
俺はまず友達を作って、何かしらのペットを飼ったらいいんだろうか。
自慢と言えば、女性にもて続けていることだろうか。それから、ファイヤーできたことだ。ネットを見るとファイヤーしたいと言う人で溢れているけど、実現できる人は少ない。俺が退職を決意した理由は働かなくてもある程度の収入が見込めるようになったからだ。所謂、株の配当金でファイヤーできたタイプである。配当金収入が年間年間二百五十万くらいある。正直言って足りないけれど、持ち家でローンも終わっているし、あと十年以上は何も手を加えずに住める予定だ。
車は持っていないが、自宅の駐車場は貸し出して月1万5千円ほどの副収入を得ている。後は節約して何とかやりくりする予定だ。
やはり、俺がモテる理由は金があるからだ。独身だし、俺と結婚すれば楽できるという雰囲気を漂わせている。そのお陰で、やめた会社の部下の女性からいまだに言い寄られている。俺の配当収入は大したことないのだが、彼女にはもっとあるかのようなふりを装っている。
しかし、やめてみてわかったのは、小説のネタというのは外に出ているからこそ思いつくもので、一人で家にいても何も浮かんでこないということだった。俺が抱えていたストレスのお陰で、書けていたと思う。
***
あまりにネタがないから、自分が気持ち悪い男になることに決めた。Twitterアカウントを開設して、気持ち悪いことをつぶやく。
『猫の死体を拾ってきてどのくらいで白骨化するか実験してみた』
こうツイートしてネットから拾って来た猫の死体の写真を乗せた。これは100回くらいリツイートされて「頭のおかしい人がいる」とバッシングを受けた。
『先日、包丁で切って膿んだところをウジ虫に食わせてみた。蛆虫が傷口の壊死組織を食べてくれるらしい』
これは、無菌状態の蛆虫でないと危ないというコメントをもらった。
『蛆虫でミートソースを作ってみた。絶賛試食中!』
『蛆虫が皮膚の中に入り込んでしまって、腕がむずむずする』
『夜中に全裸でゴミ出しに行った』
『ゴキブリが布団の中に入って来た』
『猫の死体はビニールに入れて風呂場に置いている。ものすごい悪臭を放っている。茶色い汁が出て来た。袋に蠅が集っている』
ビニール袋に黒いぬいぐるみと茶色い液体を入れて写真を撮った。
『家の床を紙魚が走っていた。早すぎて写真が取れなかった』
『一人暮らしのお年寄りが庭に倒れている。このままどうなるか観察する』
『自宅で入れ墨を入れてみた。広末涼子LOVEと入れてみた』
『VIO脱毛に行ってみた』
『駅で見かけたかわいい女子高生に告白』
『ラブドールを自転車に乗せてオフィス街をサイクリングする』
『ラブドールと結婚すると書いて、知ってる人全員にメールを送った』
『デイサービスで知り合ったおばあさんと同棲することになった』
『女装して幼稚園のバザーに行く』
そこそこ登録者が増えて、『気持ち悪い』、『頭がおかしい』、『うそばっかり』というコメントを貰えるようになった。できるだけ毎日ツイートしていたのだけど、こちらももうネタがなくなってしまった。
相変わらず小説は一本も書けていない。なぜ、書けないのかわからない。
***
俺に好意を持ってくれていた部下の子から連絡があったので、うちに呼んでみた。 今まで二人で食事したこともないのに、ずいぶん尻軽な女だと思う。彼女を怖がらせてみることにした。
その人はAさんと言って二十代半ばで有名大学出身。彼氏いない歴=年齢の高学歴処女の人だ。はっきり言ってタイプではない。顔は普通。女なら誰でもいいという人なら付き合いたいと思うかもしれないが、頑固で面倒くさい感じの人だ。毎日電話して来るから、そろそろ俺を諦めて欲しいと思っていた。
取りあえず頑張って部屋を片付けて、その日を迎えた。その時、食事として出したのは普通の物ばかりだった。しかし、お品書きというのを作って、食べ終わった後に彼女に渡した。
フルコース
1.オードブル ウジ虫のキッシュと犬肉の生ハム アジサイのお浸し添え
2. 糞尿のスープ
3. 焼き金魚
4. 目ヤニ入りシャーベット
5. 俺の睾丸のソテー
6. 俺の陰毛のサラダ
7. デザートはフケと◎ンカスのゼリー
カビの生えたチーズ
庭に落ちていてアリがたかっていたイチジクのグラッセ
8. カブトムシをすり潰して作ったコーヒー
彼女は歪んだ笑みを浮かべた。きっと気持ち悪い人だと思ってくれただろう。俺は彼女の言葉を待った。
「よくこれだけ思いつきましたね。天才!」
明るい声だった。
「ああ、そう。ありがとう」
随分、ノリのいい子だなと思った。どんなことでも、褒められると嬉しくなる。
「先にいただけて嬉しいです」
「は?」
彼女は笑顔になった。頬がてかてか光っていた。
「今日は、部長をいただきに来ましたから」
それから後のことは覚えていない。
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