年賀状

 これは俺が20代の頃の話。


 その頃は自宅に年賀状を送るのが一般的だった。

 今はほとんどLineとかで済ませているんじゃないかと思う・・・うちには年賀状がほとんど来ないからわからない。

 仕事関係は会社に届く。


 ある年の年末、取引先の人(Aさん)が急死してしまった。

 心不全だったと聞いたと思う。

 クリスマスくらいの時期だった。

 俺は約束があって、その相手に「お通夜に行くことになったから」と言って断った記憶がある。


 Aさんとは、上司と一緒に何回か飲みに行ったことがあった。

 明るくていい人だった。

 俺は会社帰りに上司と一緒にお通夜に行った。

 黒いネクタイと靴下を持って行ったんだった・・・。


 Aさんは働き盛りで、奥さんと小さい子供が2人もいた人だった。

 奥さんはずっと下を向いていて、その場に座っているだけで精一杯だったと思う。見ているのが辛くてたまらなかった。


 病死で長く患っていて亡くなったのなら、家族も諦めがつくけど、急に亡くなってしまうと気持ちの持っていきようがない・・・。お通夜の席が現実とは思えないだろう。


 俺は年末もどんよりした気持ちで過ごしていた。

 どうせ一人だから何もすることはないんだけど・・・。一人で喪に服していた。

 俺はプライベートのAさんを知っているわけじゃない。

 でも、葬式には会社の人や友達がたくさん来ていたし、すごく慕われていた人だったようだ。そんな人が急にいなくなってしまったら、みんなどれほどの衝撃を受けているだろうか・・・。


 正月明けに会社に行ったら、Aさんから年賀状が届いていた。上司と俺と別々に・・・。住所は印刷。裏面には謹賀新年の文字とイラスト。


「また飲みに行きましょう!」と手書きで書いてあった。


 俺は複雑な気持ちになった。Aさんがこれを書いた時は、まさかそのすぐ後に死ぬなんて思ってなかったはずだ。そのメッセージは未来につながっている・・・。亡くなったことを知らなかったら、また次回があると思い込んでいたかもしれない。


 俺はその年賀状を今でも捨てられない。

 それを捨てたらAさんが本当にいなくなってしまう気がするから。

 俺がそれを持っていたら、まだAさんがこの世と繋がっていられる気がする・・・。

 あちらはちゃんと家族がいるのに・・・俺は勝手にそう思っている。


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