甘い物(おススメ度★)

 俺は子供の頃から甘い物が好きじゃない。チョコレートなんて、うまいと思ったことがない。


 だから、ストレス発散に甘いものを食べる人の気持ちがわからない。甘いものをやめられないというのもそう。


 前の会社に甘い物が大好きな50代のおっさんがいた。名前はとりあえずAさん。気が付けば俺もその人の年齢に近づきつつある。会社の机の引き出しは甘いものだらけ、見ると何かしらお菓子を食ってて、ドリンクは午後ティーみたいな人だった。普通は甘いものを食べたら、お茶を飲むと思うけど、本当に甘い好きの人のにはドリンクにも砂糖が入っている。そんな感じだからAさんは太ってた。


 最近じゃ、砂糖が体に一番悪い食品だと槍玉にあがっている。

 俺はその人の体が心配で、会社へのお土産はあえて甘くない物を買って行ったりしていた。


 Aさんはやっぱり糖尿病を患っていた。

 でも、やめなきゃと思うほどやめれないもんかもしれない。5年くらい前から糖尿病になったと聞いていたけど、常に甘いものを食べていた。糖尿の人は間食する時も、血糖値が上がりにくい物を食べないといけない。例えば寒天ゼリーとか、チーズとかだ。俺の母親も糖尿で施設ではおやつを食べさせてもらえなかった。その代わり0カロリーのゼリーとかが出ていたらしい。


 俺はAさんの奥さんじゃないけど、甘味料ラカントにすればどうですか?とか、フルーツ食べればどうですか?と言ったりしていた。


 Aさんは独身で一人暮らしだった。だから、家でもずっと甘い物を食ってる気がした。


 Aさんとは一緒に客先を訪問したりしていたが、Aさんはだんだん歩くのが遅くなっていった気がした。

「どうしたんですか?」

「ちょっと疲れやすくて・・・」

 Aさんはすぐに座りたがった。駅だとベンチ。外出していると、公園で休憩や金がかからないところで休憩。

「大丈夫ですか?」

「うん。やっぱり年かな」

 俺は50過ぎると、ガクンと体力が落ちるのかなとしか思っていなかった。

 そして、Aさんはアクエリなどのジュースを買って飲む。


「甘い物よりお茶がいいんじゃないですか?」

「でも、疲れると甘いものを飲みたくなるんだよ」

「糖尿悪化しますよ」


 俺はずっと気がかりだった。

 俺の母親が糖尿になったのは60過ぎてからだけど、Aさんはまだ50代。


「薬飲んでるから大丈夫だよ」

「いつから糖尿なんですか?」

「40くらいかな・・・」

「え!何で甘い物、やめないんですか?」

「うん。どうしてもやめられなくてね」

「他のものに置き換えるとか・・・」

「なんかね。ストレスたまると甘いものに走っちゃうんだよね」


 Aさんはそれからも甘いものをやめようとしなかった。ずっと通院してたけど、自覚症状がないから食生活を変えようとはしなかった。そしたら、ある時からだんだん目がかすむようになって、視力が落ちていったそうだ。そして、ある日気が付いたら目の前が赤くなっていて、眼底出血を起こしていたそうだ。

 

 『眼底出血から片目を失明・・・その後、足に来てしまい病院に入院。2週間、リハビリしたけど断念して片足を切断することになってしまった。翌年には腎不全になって、透析を開始する。まだ40代半ば。そして、その数年後には、もう片足を切断。仕事を退職。さらにはもう片方も眼底出血。そして、50代で亡くなってしまった』(「落下星の部屋」のダイジェスト)


 引用部分は、糖尿の合併症で50代で亡くなってしまった落下星さんという男性の経過をものすごく短くまとめたものだ。ご本人は20年前に亡くなってしまったけど、「落下星の部屋」というページがまだあって、現在も閲覧できる。そして死後も、自分のようになってほしくないというメッセージを伝え続けているんだ。故人の遺志を友達が引き継いだみたいだ。


 落下星さんは足に壊疽を起こしても、アルコールをやめられなかったそうだ。

 アルコール依存症気味だったのかもしれない。


 俺はそのHPをAさんに教えた。そしたら、ショックを受けていて、本気で甘いものをやめたいと言っていた。


 でも、俺のいないところでは甘いものを食べていたかもしれない。

 最後に会った時も「甘い物食っちゃだめですよ」と俺は言ってたと思う。

 Aさんがその後どうなったかはわからない。俺が会社をやめたから・・・。


 あれから20年。

 生きてたらもう75くらい・・・Aさんは、もうこの世の人じゃないかもしれない。


 

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