ホラー・ショート・ストーリーズ

匂い

人間誰しも匂いがある。すれ違うといい匂いがする人がいるし、臭い人もいる。

若い女性からは大体いい匂いがする。シャンプーのようなほのかな香り。

宅急便のお兄ちゃんなんかは、結構匂いに気をつけているのか、デオドラントの香りが玄関にしばらく残っていたりする。

サラリーマンでも、石鹸か洗剤の爽やかな匂いがする人もいる。ちょっとドキッとしてしまう。

暗がりを歩いていて、誰もいないのに匂いだけが通り過ぎて行くことがある。

そういう時は大体夜だ。

死んだ人は匂いもあるんだな、と思う。

いつものルーティンをこなし続けているのか、誰かに会いに行くのか。

その人の匂いっていうのは、姿と同じでずっと変わらないんだろう。

前の会社にAさんという人がいた。

パワハラで自殺してしまったと言われていた。仕事のできない人で、みんな困っていたのは事実だった。できればやめて欲しかった。しかも、Aさんはワキガで夏は特に臭かった。風呂に入ってない感じではないけど、臭くてたまらなかった。海外の強力なデオドラントでも使えばいいんだろうけど、そんなに親しくなくて、何も言えなかった。

上司はみんなを代表して注意していたけど、パワハラになってしまったみたいだ。

その人の机はしばらく空席だった。

俺が残業してると、ほんのりワキガの匂いが漂ってきた。

Aさんだ。俺の周りをぐるぐる回っている。

Aさんが亡くなって、実はみんなほっとしてたのかもしれない。もう、あの匂いを嗅がなくて済むんだから。

どうして俺だけ？

あ、俺、結構Aさんの悪口言ってたかも。

ワキガの匂いも慣れる。美人はワキガの人が多いとか。元カノもそうで、俺はもう慣れてしまってた。だから、別の人のこと行った方がいいですよ。

ご愁傷様です。