雨(おススメ度★)

俺が子供の頃のことだった。


雨の日に玄関に誰か尋ねて来た。


うちはインターフォンがなく、玄関には鍵をかけていなかった。

だから、人が来ると玄関から大声で人が呼ぶ。

そして、1階にいる誰かが出て行くという感じだった。


その時は、家に誰もいなくて小学生だった俺が出て行った。


玄関の外にずぶ濡れの女の人が立っていた。


「はい」


俺は困った。

大人だったら、玄関に入れて雨宿りさせてあげたり、タオルを貸して髪を乾かすように勧めたりするだろうが、俺はまだ子供だった。


「雨宿りさせてもらえませんか」


 そう言って、その人は無断で入って来た。

 俺は断れなかった。


「はい」


 その人は玄関のたたきに入って来た。

 川に落ちたのかと思うくらいずぶぬれだった。


 俺は玄関に面した廊下に黙って立っていた。

 奥に行ってしまうと、その人が上がって来る気がして怖かったからだ。


 30歳くらいの髪の長い人だった。

 よく見ると足は裸足。

 しかも、白いワンピースには所々草やゴミがついて汚れていて、やっぱり川に落ち談だろうと思った。

 唇が真っ青だった。


 俺は大丈夫かと心配になった。

 女の人は何も言わない。


 俺はなぜか警察に電話しようと思った。

 それで女の人をそのままにして、電話を掛けに居間に行った。

 居間にしか電話がなかったからだ。


 そして、産まれて初めて110に電話して、玄関にずぶぬれの人がいると言った。

 警察は俺が悪戯電話をしたと思ったようで、信用してくれなかった。


「その人の名前を聞いて来てもらえないかな。あとどうして濡れてるかも」

 

 俺は言われた通り玄関に行くと、女の人はいなくなっていた。

 家に入っ来たのかと思って怖くなったが、廊下は濡れていなかった。


 でも、夢じゃない証拠に、その女の人が立っていた辺りはびしょびしょだった。


 数日経ってから、うちに警察の人が来た。

 近くの人工池で入水自殺をした人がいたということだった。

 近所にとあだ名されている池があった。

 一度落ちると這い上がれない構造になっていたのだ。


 俺がその人が亡くなった頃に、警察に電話をしたから訪ねて来たということだった。

 その時の女の人の服装を聞かれて、花柄の白いワンピースだったと答えた。

 警察の人は驚いていた。


 その場では、「あ、そう。やっぱり」とだけ言っていた。


 その人が死ぬ前に、誰かに止めてもらいたかったのか、幽霊だったのかはわからない。多分、池に行く途中に思いとどまって、うちに助けを求めに来たんじゃないかと言われた。


 ただ、その人の寂しそうな姿が今も頭から離れない。

「ごめんね。俺、気が付かなかったんだよ。だって、子供だったし」

 

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