見知らぬ住人(おススメ度★)

 実家の近くに平屋の家があった。


 古い木造家屋で周りを生垣で囲っているような。

 大正時代に建てられたような家だ。


 屋根は瓦で、そのうち瓦の重みで崩れるんじゃないかというな有様だった。


 壁は土でできていて、所々剥げて、中の骨組みが見えていた。

 窓ガラスが割れた所は板が打ち付けてあった。


 そこは、誰か住んでいるみたいだが、誰もそこの住民に会ったことがなかった。


 町内会にも入ってなくて、観覧版を回していなかった。

 でも、誰か住んでいる感じがした。

 空き家とちがって玄関がきれいに掃かれていた。

 ポストにもガムテープが貼ってない。

 何らかの郵便物が届いているのだ。


 俺はいつか住人を見てやりたいと思っていた。


 他の小学生たちもそう思っていたらしく、インターホンを押してみたりした。

 ひどいやつは引き戸を開けようとした。

 しかし、鍵がかかっていたそうだ。


 買い物に行っていないとしたら、どうやって食料を調達していたのだろうかと思う。

 水道、ガス、電気は?


 俺は友達と一緒にその家の庭に勝手に入って行った。

 不法侵入だが、子供だからそんな知識はない。


 住人に見つかって怒られるかも知れないが、それでも謎を解明したかった。

 家の周りを回ってみたが、中は見えなかった。


 外は草ぼうぼう。


 その家は、虫の天国で、夏になるとものすごい勢いで虫が鳴いていたものだ。

 風情どころか、うるさいほどだった。


 俺はすぐに足を虫に刺されて痒くなった。

 何でそんなことをしてるか、馬鹿らしくなって来た。

 庭をぐるっと回っても誰も見えない。

 きっと、誰も住んでいないんだ。


 それから、何年も経った。


 俺は中学生になっていた。

 部活が終わって買い食いをして、遅くなってしまった時だった。

 夜七時過ぎに、その家の前を通った。


 長年、そこを通るたびに、明かりがついていないかを確認する習慣がついていた。

 ふと横を見ると、あの家から明かりが漏れていたのだ。


 俺は狂喜した。


 正面からは見えないが、家の奥の方に少しだけ明かりが見えた。

 道路側ではなく、隣の家と接している側だから、隣の家の明かりと混じって見えた。

 どうやら、俺だけは運よく、平屋の明かりに気が付いたようだった。


 俺は咄嗟に庭に潜り込んだ。

 そのチャンスを逃したら、もう次はいつになるかわからない・・・。

 雑草をかき分けて、灯りの方に向かって歩いて行った。


 運のいいことに窓が少し空いていた。

 俺は恐々、覗いてみた。


 どきどき。ドキドキ、と心臓の鼓動が聞こえた。

 ようやく、長年の疑問が解消されるのだ。


 俺は息を飲んだ。

 俺はお年寄りが浴衣でも着て座っているのを想像していた。


 しかし・・・、


 そこで見たのは、二人の男女がもつれあっている姿だった。

 どちらも知っている人だった。


 男は60くらいで、女は独身で20くらいだった。

 しかも、おじさんの方は俺の同級生のおじいちゃん。

 意外な組み合わせで俺は驚いた。


 結局そこは、目的のために使われている、近所の人たちの共同の部屋だったのだ。


 だから親に聞いても知らないふりをする。

 回覧板も回さない。

 でも、最低限玄関は掃除してあって、電気代は払っているという・・・。


 俺はしばらく見ていて、ばれるのが怖くなったので逃げた。


 数日後に、おじさんに会った時、その人はにやにやしながら「この間、見てただろ?」と聞いて来た。

「いいえ。見てません」

 俺は首を振った。

「言いふらしたりしたら・・・わかってんだろうな」

 おじさんは、口の片側だけを引きつらせて睨んだ。


 俺は殺されると思って、このことは今まで誰にも言ったことがない。

 





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