転生
朝起きたら私は猫になっていた。
六畳くらいのワンルームに私はいた。部屋は足の踏み場もないくらい散らかっていて、床には猫の毛、埃、食べ物のカスがまんべんなく落ちていた。私は汚いところが嫌いだから、取り敢えずベッドに上がる。
しかし、そのシーツも全然洗っていないようで、薄汚れてべたべたしていた。疲れたので、取りあえず寝る。
なぜかわからないけど、ものすごく眠い。今は…午後の3時半か。目を閉じる。
暗くなってからドアの外からガチャガチャという音がした。私は首をもたげた。何だろう。私はどこにいるんだろうか。
「ただいまー」
その男は訳の分からない言葉で喋る。東アジアにいそうな男が部屋に入って来た。眼鏡をかけていて、鼻は豚のように上を向いていて、あり得ない程不細工だった。アジア人でも見た目のいい者もいるのに、その男は目を背けなくてはやり過ごせないほどひどい顔だった。
男は私を抱き上げて頬ずりする。こんなアジア人に抱かれているなんて、気が遠くなりそうだった。
「今日は何してたのかなぁ?」
と言いながら、男は私の胸を撫でた。異常だ。普通なら背中を撫でるものだろう。
男が部屋の床に座ると、私はなぜかゴロゴロと男に寄って行った。本能とでも言うべきか。その男が欲しくて仕方がない。
私は大きな声で鳴く。自分でも理解できないけど、自然と大きな声が出てしまった。男は私を見ていやらしそうに笑う。君が悪くなって離れる。
しかし、何分後かにはまたやっている。やめようと思うのに、やめられない。そして、お尻を高く持ち上げるような変な姿勢を取ってしまう。何故なのか自分でもわからない。この男にかまって欲しく仕方ないのだ。顔は不細工だけど、本能的に惹かれているのか。言葉では説明できない衝動だった。
男は棚の上のケースから綿棒を取り出して、私を抱き寄せた。何が始まるんだろうかと私は身構える。
すると、男は私のお尻に綿棒を突き刺した。「ニャっ」と声を出してしまう。同時に、ぞっとするような鋭い痛みが走る。私はその瞬間、それまで何をやっていたかをすべて忘れてしまった。そして、またベッドで寝ることにした。
「キティ―が女の子だったらよかったのにな」
男は歯並びの悪い口元を見せて笑った。
ぞっとするほど醜かった。
自分がどれほど屈辱的なまねをされたかを考えると、気が遠くなる。
今の生活は地獄だ。
狭い部屋に監禁されている。
何の娯楽も、楽しみもない。
与えられる食べ物は不衛生で最悪だ。
それでも食べなければ生きられない。
私は没落したとは言えイギリスの貴族の端くれなのに、なぜこんなところにいるのだろうか。理由がわからない。気が狂いそうだが、もう、考えることをやめている。
私はどうやら猫に転生したらしい。
人間は〇んだら死後の世界に行くのではないのか。
聖書に書いてあったことは何なのか。
私が教会にして来た寄付は何だったのか。
男は裸で部屋をうろうろしている。
自分の部屋なら当然だ。
男は一人暮らしの部屋で、ただ猫を飼っているだけだ。
私は壁のように部屋の一部だ。
誰も私が人間だとは気が付かない。
主よ。なぜですか?
答えがあるはずがない。
聖書は動物のためには書かれていない。
私は同時に信仰を捨てた。
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