カラス
都会に住んでいても、カラスと鳩、スズメだけはいる。
俺はカラスが怖い。
幼い頃から恐怖漫画を読み過ぎたせいで、カラスに目をつつかれるという状況が脳に刷り込まれている。
誰の漫画か覚えていないが、カラスに襲われ、目をつつかれて、最後は目玉が飛び出してしまうという王道の展開だ。
あの固いくちばしでつつかれたら、簡単に失明してしまうだろう・・・。
カラスは賢く小学校低学年並みの知能を持つそうだ。
あんな小さな体で、そんなに頭がいいなんてすごい。というか、気持ちが悪い。
寿命も10年から20年と長いらしいから、いくら駆除しても減らないんだろう。
カラスは人の顔を覚えるというのはよく言われている。
実験によると、1日から2日で顔を覚えて、それが1年は持続するそうだ。 噂では死ぬまで覚えているとか・・・。
人間以上の記憶力だ。野生で暮らしているから、自己防衛本能が働いているようだ。人に育てられたカラスはこういう能力がなくなってしまうそうなので、元々備わっている能力プラス後天的なものなのだろう。
マンションに住んでいると、扉付きのゴミ捨て場があるから、カラスに悩まされることはほぼないと思う。しかし、アパートや戸建てだと、道端のゴミ捨て場に捨てなくてはいけない。
これは俺が大学生の頃のことだ。
昔は金がなくてアパートに住んでいたから、ゴミはアパートの前の歩道にある共同のゴミ捨て場に捨てることになっていた。
俺が朝ゴミを捨てに行くと、ちょうど一羽のカラスがそこにいて、ゴミ袋からはみ出した生ごみをついばんでいるところだった。俺はカラスが怖いので、カラスがいなくなるまで近くに立って待つことにした。
しかし、カラスはずっとそこにいて逃げる気配がない。
カラスと目を合わせない方がいいと思うので、俺はちょっと目を背けたままそこにいた。
すると、後からおばさんがやって来た。
俺はおばさんがやられるのではないかと心配していたが、杞憂だった。手に箒を持っていて、カラスを叩き始めたのだ。すると、カラスはすぐに飛んで逃げて行った。上を見ると電線に止まってこっちを見ていた。恨むような目つきだった。
「やめろ!俺じゃない」と心の中で叫びながら、ゴミを置いて走ってアパートに駆け込みたかったが、俺の部屋は2階だった。階段を上がってしばらくカラスに監視され続けていた。
カラスに居場所がばれてしまったかもしれない・・・俺は怖くなった。
当時のアパートは木造二階建てで、廊下に洗濯機置き場があった。
洗濯機は二層式。洗剤を入れて回して、水を捨て、水道である程度泡を落としてから、脱水。洗濯槽に戻して、すすぎ洗いする。そして、水がきれいになってきたら脱水して終了。こんな風に相当面倒くさい手順が必要だった。洗濯し始めたら出かけられないし、昼寝もできない。
俺は部屋の掃除なんかをしながら洗濯をしていた。
俺が昼から洗濯機を回していた時だ。
そろそろ、脱水かなと思って廊下に出ようとすると、洗濯機にカラスが止っていた。
俺は直感で、この間のカラスだと思った。
慌ててドアを閉めた。
そして、台所の窓を開けて廊下を見ると、カラスがずっとそこにいる・・・。
やつは俺が怖がっていることを知ってるんだ。
俺はカラスがいなくなるまで部屋の中で待つことにした。
しかし、時間が経ってもいなくならない。
夕方になったら帰るだろうと思って放置しておいた。
そして、もういいだろうと思った時に、廊下を見たらカラスが洗濯機の中にフンをして飛び去っていったのだ。
俺はショックすぎて、洗っていた服を全部捨てたいくらいだったが、そんなのは無理だった。もう一度洗濯し直して、消毒のために天日干しすることにした。そのアパートには、ベランダのような高級な物はなく、ただ、窓の外に物干しが渡してあるだけだった。
俺は洗濯物を外に出したまま寝ていたが、次の日、窓を開けると洗濯物が地面に落ちていて、しかもフンがかけられていた。
それからは、夜、洗濯して部屋干しするようにした。
しかし、困ったのは外出の時だ。
大学生なので、昼間出かけないわけにはいかない。
カラスがいないか確かめてほっとして出かけると、家の外に出たところで頭にフンを落とされたのだ。
もし、小学校低学年くらいの知能があるなら、俺はやつと話し合いたかった。
箒で叩いたのは俺じゃないと。
カラスの嫌がらせはしばらく続き、俺は昼間出かける時は駅まで傘を差すようになった。
その傘にもフンを落とされた。
さらに、石が落ちて来たこともあった。
外に出る時はびくびくものだった・・・。
ノイローゼになりそうだったが、その嫌がらせは2か月くらいで終わった。
カラスが飽きたか、バカバカしくなったのだろうか。
あれから20年以上経った。寿命を考えるとあの時のカラスはもう死んでいると思うが、今でもカラスの呪いが続いているような気がしてならない。外でカラスを見ると、あのカラスが俺を追いかけてきているんじゃないか・・・と、今でも思う。
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