セールス電話(おススメ度★)

 みんなは在宅ワークしてるだろうか?

 俺はコロナの後も普通に出勤してる。


 仕事は家でもできるけど、オフィスが無人というわけにいかないからだ。

 

 俺が毎日出勤していると、「江田さんがいるから、行かなくていいや」とみんな来なくなる。

 今日も部で俺一人しか出勤していない。

 在宅勤務は楽だ。

 通勤時間が不要になると随分違う。


 それでも俺は会社の方が好きだ。

 仕事がはかどる。

 暑いから素足にサンダルでも、半そででも誰も見てない。

 というか、誰もいない。


 最近は一人過ぎて、むしろ気が散るので音楽を流している。

 当然、電話がかかって来た時は切るが。

 しかし、もはやオフィスには電話もかかって来ないのだ。

 固定電話には大体セールスの電話しか来ない。


 社員はみな携帯を支給されているから、ほぼ携帯にかかって来る。

 それ以外は大体メールだ。


 そういえば、去年怖い電話がかかって来たことがある。

 今日の話はホラーではない。


 くぐもった女の声だった。

 印象としては30歳くらいだろうか。


「□□商事の沢田(仮名)と申します。田中様お手すきでしょうか」

「田中はもう退職いたしました。」

 田中さんという人は何年か前にやめていた。

「さようでございますか。以前お名刺を頂戴したことがありましたので。こちらにお電話させていただきました」

 そう言っておきながら、実はただのセールスであることはままあるのだ。

 俺は暇なので用件を聞いてみた。


 俺は電話をスピーカーに切り替えて、すかさず□□商事をネット検索する。

 ヒットしない。


 そう言えば、非通知でかかってきている。

 ビジネスでは普通あり得ない!

 俺はやっぱり怪しい電話なのだと悟った。

 

 女が言うにはこういうことだった。

「御社の社内に盗聴器が仕掛けられています」

「あ、そうなんですか。何でわかったんですか?」

「今、お近くにいるんですが、盗聴器が拾った音をこちらで聞かせていただいてますので」

「え?」

 俺は焦った。

「音楽かけていらっしゃいますよね?」

「はぁ・・・」

「さっきまでYOASOBIの曲聞いてらっしゃいましたよね」

 

 俺は愕然とした。

 本当だったからだ。

 せめて、クラシックとかジャズぐらいにしておけばよかった。


「はい」

「盗聴器を取りに伺いますが・・・よろしいでしょうか」

「いや、ちょっと待ってください。

 本社に聞かないと」

「今すぐでないと・・・ちょっと困るんです」

「じゃあ、折り返すので連絡先を教えてもらえませんか?」

「いいえ。今出先なので・・・10分後にお掛けします。

 もし、10分後にお伺いOKがでなかったら、別の現場に行きますので・・・」


 俺はすぐに本社の総務部に電話した。 


 もちろん、その場からは離れた。


 事情を説明して、俺が音楽をかけながら仕事をしていたことを告白した。

「でも、自作自演かもしれませんから・・・頼むとしても別の業者に頼んだ方が・・・」

「そうですね。じゃあ、今回は断ります。」


 10分後に電話が掛かって来た。

「本社の決済が下りなくて・・・別の日にしてもらえませんか?」

「いやー。それはちょっと。いいんですか。オタクの会社情報が漏れても」

「今はあんまり電話かかって来ませんから」


 俺は言った。


「会社の信用にかかわりますよ」

「この間も、顧客の機密情報が漏洩して、億単位の損害倍書を請求されたんですから」

「どこの会社の話ですか?」

「〇〇商事さんです」

 俺はその事件についてしつこく尋ねると逆切れしたようで、相手は電話を切ってしまった・・・。


 そして、おれは無音の中取り残された。

 誰かが俺のおならの音や、あくびの音が聞ける状態で・・・。


 静寂の中、俺がパソコンのキーボードを叩く音だけが聞こえる・・・

 気が狂いそうだった。

 誰も来なくなってしまった、人気のないオフィス。


 不特定多数が出入りする場所でない場合は、ビルメンテナンス、清掃員などが設置している可能性が高いそうだ。

これまで自宅のようにくつろいでいたオフィスで、もはやストレスしか感じなくなってしまった。

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