間違い電話

 先日、携帯に変な電話が掛かって来た。


「〇〇〇〇の佐々木と申します。お世話になっております」

「はい。お世話になっております。」聞き取れなかったが適当に答えた。

「〇〇生命の保険に加入していると思いますが」

 それもよく聞き取れなかった。以前、保険の見直しをしてもらった時、代理店経由で保険に入ったからその話だと思っていた。

「はあ」

「この度、ご主人がお亡くなりになったということで、死亡保険金の御請求をなさったと思いますが・・・」

「いいえ。死んでいませんけど」

 俺は答えた。

「電話番号お間違えじゃありませんか?」

 その人は電話番号を読み上げたが、俺の番号だった。でも、俺はもう15年以上今の番号を使っているのだが。

「倉沢様じゃありませんか?」

「いいえ。違います」

 そうやって電話を切った。


 我が家は共働きだ。だから、俺は5千万。妻は3千万の定期生命保険に加入している。子どもはいない。妻が避妊のためにピルを飲んでいるからだ。子どもが嫌いだそうだ。共有で家を買っているのだが、連帯債務型で組んでいる。家を買うときに、二人の収入を合算して高い物件を買ってしまったから、嫁が死んでしまってもローンは残る。だから、どちらかが死んでも困らないように、生命保険に加入しているんだ。


 俺はその時、本当に妻が死んでくれたらいいなぁ・・・と思った。俺は妻が嫌いだ。男にだらしなくて、始終、男友達と2人で飲みに出かけてしまう。何人かの男に「おたくの奥さんに誘われてやった」と言われたことがある。恥ずかしかった。付き合っていた頃からそんな感じだったが、結婚したら絶対やめると言ったのに全然変わらなかった。


 俺は結婚生活に絶望して不倫するようになった。最初は出会い系で探したけど、その後、会社で出会ったのは、25歳の控えめで清楚な美人。性格が穏やかで真面目。俺のことが好きだから、結婚してくれなくても構わないと言ってくれる人だ。何という神様の悪戯だろう・・・。あと数年早く出会えていたら、100%彼女と結婚したのに。


 嫁が外で遊び歩いている時は、俺は彼女の家に行く。週の半分は彼女の家にいるという異常さだ。彼女は優しい性格で、俺が家にいる時は、何もしなくていいからゆっくりしててと言ってくれる。家事を分担させようとする嫁とは大違いだ。心からくつろげる。シングルマザーでも育てたいから、子どもが欲しいと言っている。俺はまだ作る勇気がないけど。


 俺は彼女に会った時、先日、保険会社から変な電話があったことを伝えた。


「嫁が死んでくれたらなぁ・・・」

「駄目よ。そんなこと言っちゃ」

 彼女はたしなめた。性格のいい子だなと思った。

「私、何年でも待つから。あの世で必ず一緒になろう」

「うん」

 俺は迷いなく返事をする。待たせてしまって申し訳ないなと思う。


 ***

 

 それから数週間後。家に帰ったら、妻が死んでいた。

 俺は警察に電話をした。きっと男関係のトラブルだ。妻を本気で愛する男なんているはずがないのだが。


 しかし、嫁には3000万円の生命保険が掛けられていて、不倫相手もいる。マスコミは俺が犯人だと言い始めたいた。


 彼女も取り調べを受けて、最近俺が『妻が死んでくれたらいいのに・・・』と、言ったことを警察に話してしまった。結局、状況証拠だけで俺は逮捕された。その後、警察の厳しい取り調べがあり、寝かせてもらえず深夜まで続くことがあった。


 俺は自供した。


「妻が邪魔だったので殺しました」


 あの時、俺は家に帰って妻が出かけようとしていたから腹が立って、台所にあった包丁で刺してしまった。 


 俺は返り血を浴びていない。何故だろうか。

 あの世で一緒になろうと言ってくれた彼女はもう面会になんて来ない。

 結局、愛なんて幻だとわかった。

 だから、もうどうでもいい。

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