ホラー・ショート・ストーリーズ

不似合いな客

　俺は独身だから、一人で飯を食いに行くのは慣れてる。一人で行って一番入りづらかったのは、喫茶店のアフタヌーンティー。あれは恥ずかしかった。高級ホテルに行く機会があって、たまたまポスターを見て食いたくなった。女性一人ならともかく、男一人は死にそうなほど恥ずかしかった。

『男の一人〇〇はナシなランキング』というのを見たが、一位は遊園地だった。二位は高級レストラン、三位はプールだった。一位と三位はないけど、二位はなぜダメなのかわからない。女性を誘うとその人の分も払わないといけなくなるから、俺は一人でも行くと思う。特に出張に行ったときは一人で地元の人気店で夕飯を食べる。おかしいだろうか？

　そこそこ高い店に行くと、一人で夕飯を食べに来てる中年女性が結構いる。多分だけど、一人の方が気楽とか、誘う人がいないんじゃないかと思う。俺も同じ。

　先日俺は息子と焼き肉に行った。そしたら、隣の席にいたのが、一人で来ているおばあさんだった。若い人ならともかく、その年齢で珍しいなと思った。その年齢で焼き肉を食べるということもすごいが、寂しくないかなぁと気になってしまった。トイレに行くたびにチラ見してしまった。もし、おばあさんがよかったら、一緒に食いたいくらいだった。

　それで、俺は息子に隣に一人で来てるおばあさんがいるね、と言った。

「そう？勇気あるね」

「だろ？普通諦めるよね？」

「うん。でも、僕もやりたいことを諦めない人になりたいな」ふざけてるのか、本気なのかわからないことを言う。

「でも、見てる方が気を遣っちゃうよね」

　そのあと、息子はトイレに立った時、隣のテーブル席を覗いて帰って来た。

「今、隣見たけど・・・」

「寂しそうじゃない?」

「ううん。見たけど、おばあさんというより、40くらいの女の人だったよ」

「そう？」

　俺は気になってまたトイレに立った。戻ってくる時に顔を見たら、確かに40代のOLさんという感じの人だった。三回くらい通りかかって、その都度見てたけど、80くらいのおばあさんだったのに。灰色のセーターを着てて、全然食べてなくて、座ってるだけ。寂しそうな感じに見えた。

　会計の時に、もう一回その人の席を見てみた。すると、やっぱり、さっきのおばあさんがそこにいた。

　その人の将来かな、と俺は思った。