事故物件に住んでみた話(おススメ度★)

 前も書いたけど、俺は東京千代田区にマンションを所有している。

 東京23区のマンション相場の高いランキングだと、1位港区、2位渋谷区の次くらいだ。

 千代田区は皇居もある一等地だ。

 前は自分で住んでいたが、住所は自慢だった。


 しかし、前に書いたように、俺が所有している部屋の借主が、マンションの屋上から飛び降り自殺してしまった。

 共用部分での自殺の場合、マンションの所有者に告知義務はない。

 そのマンションは分譲なので、賃貸してる人がどれくらいいるかはわからないが、投資目的で持ってる人は焦っていただろう。


 今回は俺の部屋の住人の自殺なので、「心理的瑕疵」として告知した方がいいと不動産屋に言われた。

 瑕疵というのは、傷とか欠陥のことで、部屋で自殺などした人がいる場合などは、人によって気にする人がいるかもしれないから、一応言っとかないといけないそうだ。


 言わないで契約すると、後で損害賠償を請求されたりする場合があるそうだ。

 なお、病死などの自然死は告知義務に当たらない。


 俺は自分の部屋が事故物件扱いになって、安い賃料で借りられてしまったあげく、何年も住み続けられたら困ると判断した。


 それで、一先ず自分で何か月かそこに住むことにした。

 一度誰かに貸してしまえば、その後は告知しなくてもいいという、判例があるからだ。


 俺はマンションの前に到着した時点で、すでに得体のしれない何かに包み込まれていた。

 その人が転落した辺りには花が置かれていたから、そこで事故があったことを改めて実感した。

 花をおかないでくれ!と俺は叫びたかった。

 事故物件だというのがばれてしまうじゃないか。


 全身が重く息苦しい。

 足が前に進まない。


 エレベーターに乗って部屋に向かう間も、ずっと斜め上から覗かれているような気がする。

 怖い・・・。がちで怖い。

 トランクを持つ手が汗ばんでくる。


 部屋のある階に着いて、トランクを引きずって自分の部屋に入る。

 少し前、そこに警察が家宅捜索に来ていたはずだ。

 俺の部屋の人が亡くなったことはマンション中が知っていただろう、と思う。


 鍵を開けるのが怖く、手が震える。


 事故物件に住んでくれるバイトを雇えばよかった(都市伝説)、と心から思った。

 事故物件でも、一人に貸せばその後は告知しなくていいからだ。

 これは判例もあって本当らしい。


 ドアを開けた瞬間、すかさず明かりを付けた。


「ひい!」


 俺は悲鳴を上げて飛び上がった。

 何となく手に何かが触れた気がしたからだ。


 亡くなった方の家族がすべて持ち帰って、原状回復もした後だとわかっていても、すごく怖い。


 半分、泣きそうになりながら、靴を脱いで上がった。


 手前にダイニングキッチンがあるから、まずそのドアを開けなくてはいけない。

 ちなみに玄関は開けっ放し。


 廊下から丸見えな状態で、ダイニングキッチンのドアをそっと開けた。

 薄暗い中に、キッチンが浮かんで見えた。

 スイッチを手でバシッと叩きつけて電気をつけた。

 空っぽのダイニングキッチンは少し広く見えた。


「あー怖いよ~」

 俺は声を出してしまった。


 しかし、居室はさらに奥にあるのだ・・・。

 マンション内で最も恐ろしい場所。

 行ってはいけない場所が。


 一呼吸おいて、意を決して一気にドアを開けた。

 ドアがバタンと壁に跳ね返る。


 俺はその音に心臓が止まりそうになる。


 恐る恐る前に目を向けると、

 部屋の真ん中には、黒い影が丸くなって座っていて、こちらに顔を向けていた。

 死んだ魚のような目が俺を見ていた。


「あ、ああああああああ!・・・。」


 俺は声にならない悲鳴を上げて、尻もちをついた。

 まずい、こんなところで大声をあげてしまった。

 近所から苦情が来る。やばい。と我に返って、とりあえずドアをしめようと、もう一度部屋に引き返した。


 見ると、部屋には道路からの光がかすかに注いでいた。


 カーテンがないので、あるはずもない物の姿が映っていたのろうか。

 黒い影はもう見えなかった。


 怖すぎてとてもじゃないけど奥の部屋には入れなかった。

 ダイニングキッチンで寝るのも断念。

 すべての部屋の照明をつけっぱなしにして、放置。

 不動産屋には3か月住みました。と嘘をついて再び貸し出しました。


 ビルで投身自殺があったことは告知していません。

 告知義務がないからです。


 大島てるさんのブログを見たら俺のマンションものってるかもしれなけど・・・。

 借主が調べなかったらわからないでしょう。




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