守り刀(おススメ度★)
俺の実家には守り刀があった。
守り刀っていうのは人が亡くなった時に、胸に置くものだ。
なぜ、実家にあるかというと、江戸時代からある、先祖の墓地を掘り返した時、地中から出て来たんだそうだ。
そんなものを持って来てはいけないだろうと思うが、父は本物の日本刀に心を惹かれたのだろう。まるで家宝のように大切にしていた。
鞘から抜いてみたことがあるが、鈍い銀色だった。
神道的な考えでは死は穢れだから、もとは穢れを払うという意味があったようだ。その証拠に、神社で葬式はやらない。
仏教では49日の間に無事に極楽浄土に渡れるためのお守りらしい。
もし、そうなら、先祖はもう極楽浄土にいるだろうが、うちは残念ながら仏教じゃない。
守り刀は宗教に関係なく、古くから慣習として行われているようだが、どういう目的で使われたのかは実はよくわかっていない。死者を魔物から守るため、または、死者の魂から生者を守るためという真逆の説がある。
一体・・・どっちなのか。
もし、死者を魔物から守るためなら、先祖は今はどうなっているのだろうかと不安になる。
できれば、墓に返すべきなのではないか・・・。
仮に、死者の魂から遠ざけてくれていた守り刀が墓から取り出されてしまったら、子孫は死者から災いを受けることになってしまうことになる。
そういえば、父が早死したことは関係あったのだろうか。
先祖に魅入られて、連れ去られてしまったのだろうか。
俺はその守り刀が怖かったが、数年前に実家を解体した時に、その刀が思わず俺の所に回ってきた。子供の頃に父親に見せてもらったっきりだったから、40年ぶりに手に取ってみると、何とも言えず気味が悪かった。その刀の価値がさらに40年分増したのだが、先祖の大切な守り刀をネットオークションで売ったりしたら、きっと罰が当たるだろう。
俺は24時間、温度管理をしているコレクションルームにその守り刀を保管することにした。いつか『なんでも鑑定団』に出して、100万円くらいになったらいいなと、都合のいい妄想をしたりしていた。
刀が俺のもとに届いた夜のことだ。
俺が寝室で寝ていると、真夜中にふと目が覚めた。
顔の周りに涼しい風が吹いてきた。
窓も開けてないし、冷房もつけていないのに、生臭いような実態のないものがそこにあるみたいだった。
俺は恐々、目を開けた。
すると、目の前に白い着物を着た小柄な男が、こちらをじっと覗き込んでいた。
俺は、はっと息を飲んだ。
頭は残バラ髪で青白かった。
臭いや冷たさから生きた人間ではないようだった。
俺は全力で逃げようとしたが、体がぴくりとも動かなかった。
悲鳴を上げたかったが声がでない。
「刀を返せ!」
そう言って男はすごい勢いで俺の首に掴みかかった。
「返します!」
俺は大声で叫んだ。
するとその人は驚いたような表情をして、一瞬でいなくなった。
次の日、俺は有休を取って、すぐに先祖の墓まで刀を持って行った。
神主さんに墓まで出張してもらって、一緒に刀を埋めてもらった。
当日朝早く、神社に電話して、お祓いを頼んでおいたのだ。
「父親が墓から持って来てしまったんです」
俺は神主さんに打ち明けた。
「それはダメですね。亡くなった人と一緒に埋葬されるべきものですから」
「持っていると何か悪いことが起きるでしょうか」
「ええ。とても縁起の悪いことをなさった感じです。生きていらしたのが不思議ですよ」
神主はちょっと変わった感じの人だったが、それでも俺はぞっとした。
興味のある人は、ネットオークションで昔の守り刀を買ってみたらいいかもしれない。
俺みたいに、怖い思いができること請け合いだからだ。
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