うちの実家では犬を何匹も飼っていた。

 小学生の時は多頭飼いしてたが、みんな死んでしまって中学ぐらいには一頭に減っていた。

 昔は犬はそんなに長く生きなかった。イベルメクチンがなかったからだろうか。


 飼っていたのは全部雑種で、何故か雄ばかり。

 獣医にみせたり、去勢したりもしてなかった。

 狂犬病のワクチンなんかも打ったことがなかった。


 愛犬家の方は非常識だと憤るかもしれないが、40年前で田舎だったから、、、と言い訳しておく。今でも、国内で狂犬病ワクチンを打ってる割合は5割以下のようだから、ちゃんと獣医に行ってる家庭は半分くらいなんだろうか。


 昔だから犬は庭で飼っていた。吠えるし、近所迷惑だったと思う。

 田舎だったから犬のしつけなんて概念はなくて、散歩して糞をしたら、その場に置いて来たものだった。

 いつ頃からか、犬の糞の始末は飼い主の責任になった。

 俺の地元で今どうなっているかは知らない。


 俺が高校の時、

 部活で遅く帰って来ても、何故か犬の散歩をしていた。

 俺が家に帰ってくると犬が吠えるからだ。

 散歩に連れて行くまでは泣き止まない。

 さすがに近所から怒られると思って、俺は渋々散歩に行っていた。

 いつも夜9時過ぎになってしまった。


 それでいて、犬も家族も全然俺に感謝してない。

 犬は俺に懐いてもいなかった。

 家の中で最下層だった俺より、自分の方が偉いと思っていたに違いない。


 俺はトレーニングを兼ねて、犬と一緒に走っていた。


 街灯がぽつぽつとあるだけで、その真下だけが明るくてあとは真っ暗だった。

 マンションなんか1軒もないし、戸建てだけだったから星がよく見えた。

 9時を過ぎると、電気が消えている家もある。

 田舎だから車もあまり走っていないし、人に会わないから気楽だったけど、ちょっと怖いこともあった。

 

 犬と一緒に走っていたら、道端にスーツ姿のおじさんが仰向けに寝ていた。

 酒に酔っていたんじゃないだろうか。


 車が来たらかれてしまう。

 でも、俺は怖くて声を掛けられなかった。

 

 昔は携帯がなかったから、もし警察を呼ぶとしたら、その辺の家に頼んで電話してもらわなくてはいけない。いくら田舎だって、町内の人全員知り合いなんてことはない。しかも、そこは家から10分くらい離れていたし、学区じゃないからまったく知り合いはいなかった。

 近くに東京23区みたいにすぐ近くに交番なんかないし、俺はしばらく迷っていた。


 すると、犬がその人の匂いを嗅ぎ始めて、止める間もなく、ズボンにおしっこをかけた。

 俺は「げ、まずい!」と思って、犬の綱を引っ張った。

 犬は抵抗したが、俺はぐいと引いて、従わせた。

 蹴ってやりたかった・・・。

 その後は、家まで全力で逃げた。


 俺は家に帰ってからも、ずっとそのおじさんのことが気になっていた。

 車に跳ねられてないかな・・・。

 どうしただろうか・・・。

 別に車に跳ねられたってニュースは聞かなかった。

 地方だから、もし事故があったら、ニュースになってたんじゃないかと思うから、俺はほっとした。途中で誰かに発見されたか、目が覚めたんだろう。


 しばらくして、〇〇町で道端で凍死した人がいたと噂で聞いた・・・。

 男の人が酒に酔って道端で寝てて、そのまま亡くなったそうだ。

 そう言えば、あれは1月だったけど・・・。

 外で寝てたら凍死するなんて俺は知らなかった。

 高校生だったから。


 俺はあの日以来その道を通ったことがない。

 

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