上の階(おススメ度★★)

 俺は色んな所に住んだことがある。


 引越しは人生で20回くらいしている。

 異常な数回だ。


 子供時代は色々あった。

 大学時代は一時親戚の家にいたり、兄貴の所にいたり、自分で部屋を借りたりしていた。

 大人になってからは、転勤があったせいもある。

 あとは、仕事が忙しすぎて、会社の近くに引っ越したり等だ。


 今は持ち家なのでもう引越したくはない。

 引越しは金がかかるし、梱包などの準備が大変だからだ。


 これは、俺が関西に住んでいた頃のことだ。

 俺は転勤になり部屋を借りて一人暮らしをしていた。

 会社の転勤だから、引っ越し代も、部屋代も会社負担だ。

 しかも、東京と比べて関西は家賃が安い。

 俺は調子に乗って、駅近で、きれいで、広めのオートロックのマンションを借りていた。


 俺は物件を見るが好きだし、仕事で役に立つかと思って、借りた後も賃貸情報サイトを見続けていた。


 後からわかったけど、そのマンションは空室が多かったのだ。


 それに、入居者が頻繁に入れ替わる。

 引越しトラックがよく1階に停まっている。


 同じフロアには3部屋配置されていた。

 変わった作りで、全室が角部屋になっている。

 イメージしづらいと思うけど、上から見ると三菱みたいになっているのだ。


 俺が住み始めた時は、もう一部屋だけ、ファミリーが住んでいた。

 俺が住んで半年も経たないうちに、その人たちが越して行った。

 子供が小さかったし、奥さんが妊婦さんだったから手狭になったのだろうと思った。


 それからほどなくして、前から空いていた部屋に中年の夫婦が2人で住むようになった。


 俺は東京にいた頃と変わらず忙しく、いつも深夜帰りだった。


 ある日、管理会社から電話がかかって来た。

 俺が夜中すごい音を立てるので、下の階の人から苦情が出ているというのだった。


 俺は家に帰ってすぐにシャワーを浴びて、洗濯機を回して寝てたのだが、洗濯機の音かと思った。

 それで、管理会社の人に謝って、もう夜中に洗濯するのはやめた。


 しかし、1か月後にまた電話があった。

「やっぱりうるさい」というのだった。


 俺は何のことかわからなかった。

 俺はいつも12時くらいにならないと家に帰らないし、「うちじゃないんじゃないか」と伝えた。


 それから、次は隣の部屋からも苦情が来た。

 真夜中に壁をどんどん叩く音がするそうだ。

 俺はそんなことはしていなかった。

 部屋で寝るだけの生活を送っていたからだ。


 隣の人は、ある日ブチ切れて「いい加減にしろ」と文句を言いに来たそうだ。

 それなのに、俺が居留守を使っていると思って、逆上して管理会社に電話をかけた。


 それでまた、管理会社は平日の昼間に俺に電話をかけて来た。


 俺は答えた。

「その日は出張で家にいませんでしたけど」

「え、そうですか?」

 電話をして来た人は俺が嘘をついていると思ったようだった。


「本当ですよ。嘘じゃありません。」

「でも、お宅から聞こえるって隣の人が言ってるんですが・・・」

「どの部屋ですか?」

「洗面所です。」

 

 俺はマンションの構造を思い出した。


「でも、洗面所に隣はありませんよ。あそこの外は壁です」


 あまりに苦情が酷いので、俺は会社に相談して別の所に引越した。


 俺はしばらくして、マンションの口コミサイトでその物件のページを見てみた。

 他の部屋からの騒音が相当が酷いということだった。

 「言っても、言っても、直す気がない。住人の意識レベルが低い。」と、書いてあった。

 

 音の原因は結局わからずじまいだ。

 マンション自体は事故物件ではなさそうだから、何が大きな音を出しているのか・・・。


 しかし、思い出して見ると、その辺は第二次世界戦時中、空襲で焼け野原になった場所だ。

 爆弾が落ちて地表で爆発した音か。逃げ惑う人の悲鳴なのか。

 

 それを思うと俺は背筋が寒くなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る