人形(おススメ度★)

 人形って怖い。

 特に日本人形が苦手。

 これ普通ですね。


 ぬいぐるみだと怖くないけど、人間みたいな顔、目、口をしてると、リカちゃん人形みたいなのでも気持ち悪いなと思ってしまう。

 人形には持ち主の魂が乗り移っているか、または人形自体に魂があるような気がして来る・・・。


 昔はどこの家にも日本人形の飾りがあった気がする。

 日本人形がラスケースとかに入って居間に飾ってあった気がする。

 特に、藤娘っていうのは「良縁」の護符とされてたらしい。

 嫁入り道具のようなものだったのかなぁ、と今にしては思う。


 市松人形はさらに怖くて、大正時代あたりのがネットオークションとかに出てるけど不気味だ。

 ぼろぼろの着物を着てるのに顔だけはてかてかして、黒目がちのつぶらな瞳でこちらを見てる。

 何か言いたげだ。

 悪いけど、一緒に部屋にいるの無理。


 市松人形って、どうやら昔は裸で売られていたようで、着物は買った人が作る物だったらしい。

 そのせいでネットオークションで売られている人形の着物は、不似合いなほどぼろぼろでドラマの「おしん」みたいな素材と柄だったりする。


 実は俺人形買ったことがあります。

 アンティークのビスク・ドールを一点。


 値上がりするかなと思って購入したけど、家にあると客が怖がるので、人が来たらクローゼットに隠すようにしてる。

「何で紹介してくれないの」、「なぜ隠すの?」、と人形はきっと不満に思っているだろう。

 名前もちゃんとある。

 ローズマリー。

 ぴんと来る人もいるかもしれないけど、ホラー映画の「ローズマリーの赤ちゃん」から来てる。


 ブルーの目で透き通るような白い肌。バラ色の頬。

 歯並びのいい小ぶりな口。

 そして、なかなか目線が合わないところ・・・。

 こんな子がいたらいいなぁ。


 人形を愛してしまう小説なんかもあるけど、気持ちはわかる。

 人形というのは理想の美を具現化しているから、生身の人間が敵うはずがない。


 人形は劣化せず、化粧も崩れず、俺が抱いた感情をそのまま返してくれる。

 すべて受け入れてくれる赤ん坊のような存在だ。


 生身の人間といると相手に気を遣わなくてはいけなくなる。

 相手が自分の望んだものと違う反応をすると、失望し覚めて行く。

 相手の反応が怖くなることもある。


 人形はいつも完璧だ。

 俺を尊敬し、愛し、褒めてくれる。いつも俺を待っていてくれる。

 赤ん坊よりもペットよりも思いのままになる。


 俺はローズマリーをベッドに入れて寝るようになった。

 俺たちは愛し合った。


 しかし、幼稚園児のまま成長しないローズマリーに、俺は苛立つようになった。

 物足りないのではなく、いつまでも成熟しないことに耐えられなくなってしまった。所詮人形だから、なじむということがなかった。

 

 とうとう、俺はローズマリーに似せたラブドールを特注することにした。彼女を成人させてやるんだ。


 彼女は今家にいて俺を待っている。


 家に帰ると、彼女がいつもベッドに座っている。

 暗がりに彼女が座っていると、人がいるみたいでどきっとする。

 

 ゴージャスにカールした髪。

 陶器のように輝いて透明感のある肌。

 つやのある唇。


 値段は100万以上したし、顔も作り物のようだが、それでも満足だ。


 彼女は毎晩、俺の愚痴を聞いてくれるし、癒してくれる。

 すべてを許し、受け入れてくれる。

 生身の女とは違う。

 贅沢は言わない、飯も食わない、太らない、病気にもならない・・・いつだって完璧な妻だ。


 俺は彼女を喜ばせるために、いつか本当に結婚してやりたいと思っている。


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