空き巣(おススメ度★)

 俺が子供の頃のことだ。

 母親は買い物かなんかで留守にしていて、俺は一人で家にいた。


 部屋で昼寝をしていたら、1階でガチャンと窓ガラスの割れる音がした。


 ボールでも飛んで来たかなと思ったけど、面倒なので黙っていた。

 窓ガラスを割られたからと言って、俺が怒って出て行っても誰も怖がらないだろう。


 俺が住んでいた地方では雨戸というものが一般的ではなかったのか、俺の家にはついていなかった。


 俺は目を閉じたまま寝ていた。


 1階でどったん、ばったんとすごい音がし始めた。

 何かをひっくり返すような音だ。


 俺はもしかして泥棒ではないかと思った。

 

 どうしよう。


 見つかったら殺されるかもしれない。


 うちの実家は1階に居間と客間があって、2階にみんなの部屋があった。

 

 泥棒は多分、1階に目ぼしい物がないと気が付いたら、2階に上がって来るだろう。

 両親の部屋には箪笥があって、そこに通帳や貴金属を入れていたからだ。


 俺は毛布を持って押し入れに隠れた。

 そして、毛布を頭から被ってじっとしていた。


 俺の部屋は階段を上がって一番奥にある。


 最初にあるのは両親の部屋だ。

 

 俺は息を殺してじっとしていた。

 「お母さん、早く帰って来て」心の中で祈った。

 

 他の部屋からどたどた音がした。

 両親の部屋には随分長くいたようだった。


 それから、隣の兄の部屋。 

 ドアを開ける音が、自分の部屋かと思うくらいよく聞こえた。

 でも、入ってすぐに出て来た・・・

 

 子供部屋だからお金なんかないとわかったんだろう。


 そして、俺の部屋。


 畳を歩く湿った足音。

 

 ペタ。

 ペタ。

 ペタ。

 みし、みし、みし。


 俺ははっとして息を止めた。

 すぐ目の前にいる。

 

 誰かがガッと勢いよく押入れを開けた。

 すぐに不自然な毛布の塊に気が付いたらしい。

 誰かが俺の被っている毛布を思いきり引っ張った。


 俺は泣きながら毛布を引っ張って、「やめて」と何度も叫んでいた。

 

 男の下半身だけが見えた。 

 カーキー色のような汚れた作業服に白いソックスだった。


 男の手の力が抜けたと思ったら、衾がバタンと絞められた。


 そいつがしわがれた声で言った。

「喋ったら殺すぞ」


 俺はしゃくりあげて返事ができなかった。

 男はいつの間にかいなくなっていたようで静かになった。

 

 俺はそのまま押し入れで、母親が帰って来るのをじっとしていた。


 そして、警察にはこう言った。

「泥棒が入ったと思ったからずっと押入れに隠れてました」

 結局犯人は見つからなかった。

 

 俺は今でも、その人が殺しに来るんじゃないかと怯えている。

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