続自殺サークル(1)(おススメ度★)

 みなさんは不登校の子というと、どんな子を思い浮かべるだろうか。

 いじめに遭っている子、大人しい子などを想像すると思う。

 俺も前はそうだった。


 しかし、実態は違うみたいだ。


 俺が携帯アプリで知り合った、れい(仮名)という小学6年生男子もそうだった。

 携帯アプリで出会ったというと、出会い系と勘違いするかもしれないがそうではない。


 健全な趣味のアプリなのだが、チャットルームがあってそこで知り合ったんだ。

 別建てで『自殺サークル』という中編を書いているけど、そこのチャットルームで出会った小学生同士たちがLineグループを作って、その子たちが青木ヶ原樹海で集団自殺を企てていたんだ・・・。


 俺は仕事を休んで青木ヶ原樹海まで行ったんだけど、その時、同じ電車に乗っていたのが怜だった。俺は自分のことを、子供の命を救ったヒーローと勘違いしていたが、実際の彼はもっと複雑な人だった。


 その後、彼の家族とも直接会ったし、電話でも何度も話した。

 怜は小学校6年生で、3年くらいから不登校だった。

 理由は頭が良すぎたから、他の子たちと合わなかったんだ。男子からの仲間外れやいじめがあって、不登校になった。怜は中学からは私立に行きたいと言っていた。親も不登校よりお金がかかっても私立へと承諾していた。

 

 彼には上に中学生の姉がいた。姉は公立に通ってた。父親は信用金庫に勤めていた。奥さんは元信用金庫の職員で派遣社員。40歳くらいだった。多分、旦那の年収で600万くらいで、奥さんの方は300万くらい。世帯年収900万くらいか・・・。新築一戸建てに住んでいたが、あの辺だと3LDKは6,000万くらいするから、家計はかなりきついのではと思った。両親の人生設計では、子供たちは中学までは公立に行かせる予定だったろう。


 怜は喋っていると大人と同じ位賢かった。普通の両親から、随分賢い子が産まれたと思うくらいだった。両親は父が日東駒専クラスの大卒、母は短大卒だった。怜は東大にでもいくんじゃないかという雰囲気で、兄をほうふつとさせるタイプだった。

 俺はこういうファミリーが苦手だった・・・あちらもそうだろう。奥さんはうちの会社に派遣でいてもおかしくないが、旦那みたいな感じの人とは接点がない。特に趣味がダイビング、フットサルなんて人とは本当に話題がない。


 奥さんは、仕事と家事で1週間終わるタイプだ。

 かわいいし、典型的ないい奥さんだ。


 怜は俺にはよくなついていた。両親を馬鹿にしていたが、俺を話せる大人だと思ったようだ。怜は週末必ずうちに遊びに来るようになった。俺も暇だったし、孤独だったので別に嫌ではなかった。両親も怜を持て余していたから、出かけてくれて嬉しいみたいだった。


「何で、あんなアプリやってたの?そういうのやらなそうじゃない?」

 俺は怜に尋ねた。

「ダメ人間を見てるのが面白かったから」

 でも、あの子たちは少なくとも学校には通ってた・・・だから、社会的には怜よりはまともだったのだが・・・大人になってもこういう人はいる。

「時間もったいなくなかった?」

「たまに見るだけで、本読んでたから」

「あ、そうなんだ。途中でついていけなくなるよね」

「うん。あんなのに一日中付き合ってたら、人生終わる」

 俺もそれには同感だった。


「死のうと思ってたの?」

 怜は首を振った。

「人が死ぬのを見てみたかったから」

「何で?」

「首つりをすると、どんな風になるかとか・・・死ぬまでどのくらいかかるか知りたかった」

「でも、自分も死んでたかもしれないだろ?」

「うん。それでもよかったし」

「もったいないよ。まだ楽しいことあるだろう」

「ないよ」

「もし、人が死ぬのを見たかったら、病院で医者か看護師なんかで働くとか・・・老人ホームで介護士になるとか。動物が死ぬのを見たかったら、とさつ場で働けばいいんだ」

 俺は現実的な提案をした。

 怜にシリアルキラーなんかになって欲しくないからだ。


「人が死んだとこみたことある?」

「うん。俺の両親が死んだとき」

 怜は自分の親も死ぬっていうのを、その時改めて気が付いたみたいだ。

 ちょっと間があった。

「死ぬとどうなるの?」

「まあ・・・父親の方は目の前で死んでった。人工呼吸器をつけてるんだけど、心臓が止まってしまって・・・。それで、ご臨終ですって医者が言ってた。母親の方は、死に目に会えなくて、行った時にはもう亡くなってた。でも、人工呼吸器をつけててくれて・・・もう固くなってるのに、今亡くなりましたって風にしてくれる。死に目に会えなかったって感じにしないんだよね。」

「そう・・・」

「やっぱり生きてた人が死ぬって気持ち悪いよ。楽しいとかはない」

「でも、見てみたい」

「親好きじゃない?」

「うん」

「俺も親嫌いだった。今も嫌い」


 それに、怜はこんな風にも行っていた。

「〇〇中学に行きたい」

 そこは御三家で、東大に行きたい人が目指すようなところだった。

 偏差値だと70くらいだろうか。

 あ、そうなんだ、俺は怜がものすごく勉強ができる子なんだろうと思った。

 しかし、お母さんに聞いてみたら、違ったらしい。


「勉強は全然してなくて・・・入れる学校があるかわからないくらいなんです」

 

 理想が高すぎて、現実がついて行かないタイプの人はけっこう知っていた。例えば、公務員志望で官公庁で非常勤で働いている人たちなどだ。民間を見下したりしている。あとは、難関の資格試験に何年も受からなくて就職するとか・・・こういう人が、何人も会社に面接に来たことがあった。別にいいんだ・・・みんな色んな世界観はあるだろう。


 その後、怜は偏差値60くらいの男子校に受かって、学校に行き始めた・・・友達はいないみたいだけど。時々、俺と心霊スポットめぐりや、彼の行きたい所に一緒に行く。そして、将来、お互い独身だったら一緒に住もうと話している。

 おれんちによく泊りに来る。

 俺は彼が好きだ。俺の友達も彼しかいない。


 



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