防犯メール

 俺は警視庁の犯罪発生情報を知らせるメールサービスに登録している。通り魔、ひったくり、強盗、子どもに対する犯罪、声かけ、公然ワイセツ、ひき逃げなど色々な犯罪情報を知らせてくれる。しかも、どのような情報が欲しいかは選択できる。


 身近でどんな犯罪が起きているか知るというのは、用心するためには有益なのだが、過度に疑心暗鬼になって夢にまで出て来るようになるから厄介だ。俺のように小心な人間は、こういうサービスを利用しない方がいいのかもしれない。


 少し前から、うちの近所を全裸で歩き回っている若い男がいるという目撃情報が寄せられているそうだ。男は30歳くらい。中肉中背。下半身を露出する男ならたまにいるかもしれないが、全裸はさすがに怖い・・・。ばったり出くわしたらどうしよう、という恐怖を感じるようになった。


 前は終電帰りでも何とも思わなかったが、全裸男に会わないように、早めに帰宅するようになった。そして、9時くらいには家にいて、夜間のゴミ捨てなどはせず、カーテンなんかも開けないで静かに過ごしている。こんな風に思うのは、うちが一戸建てだからだろう。


 ある夜のことだ、俺は2階のリビングで短編小説なんかを書いてて、すっかり夜更かししてしまった。気が付いたら2時くらいになっていた。

 外で物音がした気がして、電気を消してから恐る恐るカーテンを開けた。

 すると、裸の男の後ろ姿が見えたんだ。夜でも遠くの街頭の明かりで、外が見えるのだが、男の体が青白く光っていて不気味だった。そいつの髪形は坊ちゃん刈りみたいな感じで、やはり30くらいに見えた。俺は何を思ったか慌てて1階まで降りて行った。


 そして、玄関で急いで靴を履くと、ドアを開けて、男がどうするか見届けようとした。そしたら、そいつはちょうど角を曲がって行くところだった。俺は走って後を追った。


 すると、その男は全裸のまま道路の真ん中で正座をしていた。

 俺はぎょっとした。後ろを向いているから、俺には気が付いていないようだった・・・。自分の家のすぐ近くに変質者がいるなんて、ちょっとショックだった。


 俺がその場でどうしようかと逡巡していると、すぐにパトカーがやって来た。車から降りてきたのは、若くてきれいな女性警察官だった。まるでTVに出てるような美女だった。そして、男に話しかけて白黒のパトカーの後ろに乗せた。そのパトカーが変わっていて、スズキのエブリイと思われる車だが、運転席の後ろは全部荷室になっていた。普通はスモークが貼ってあると思うのだが、丸見えだった。


 そこに、さっきの露出狂の男が正座して大人しくしていると、女性警官はサイレンも鳴らさず静かに走り去って行ったんだ。


 俺はそこではっと目が覚めた。

 夢だったんだ・・・。

 やっぱり不自然な夢だった。

 エブリイパトカーの荷室があんなに丸見えなはずはないし、運転席との間に仕切りもなかった。しかも、男は手錠などもせずに、全裸で床に直に座っていた。


 俺自身に全裸で徘徊して、美人の女性警官に逮捕されたいという願望があるのかもしれない・・・。

 しかし、もしあれが現実だったら、男の警官2人で取り押さえられて、毛布でも掛けられて連行されるだろう。


 近所でどんな犯罪が起きているかを知ることによるデメリットもあるんだ・・・。

 見た人の深層心理に恐怖を植え付けてしまう。

 こんなことがあったから、俺は犯罪情報のメールサービスを続けるべきか迷っている・・・。

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