ため息
ため息を聞くと生気を吸い取られる気がする。
まるで、毒気を吹き付けられたような気分になる。
今朝、電車でため息をついている若い男がいて、俺は今でもむかむかしている・・・。
ため息をつくと『運が逃げる』とはよく聞くけれど、実際は周囲に死を連想させる不浄な空気をばらまいているんだ。これは俺の個人的な印象に過ぎない・・・すいません。
これは、ネットから拾って来た話だ。
とある会社があった。まあまあ大きい会社で、ちゃんとした所だが、大企業ではない。給料はちょっと安目だが、安定していて潰れる感じでもない。社員はみなやる気がない。出る釘は打たれ、やる気を見せてる人がいると馬鹿にするような社風の会社だ。
その会社のとある部署にお局がいた。50くらいで、結婚して高校生の子供が2人。この人も親の病気や介護、本人の更年期があった。だから、正社員で共働きは大変だった。いつも、旦那がもっと稼いでくれればと思っていた。旦那もちゃんと働いていたが、高校生2人を私立に入れて、住宅ローンがあったから仕事をやめられなかったようだった。
若い子をいつもチクチクと虐めていた。男も女もこういう人は多い。若い子の失敗を、最初だから仕方ないと思って暖かく見守ることができるか、本気で叱責するかの違いだ。後者の場合、本人にも余裕がないんだろうと思う。
仕事でミスをすると、毎回嫌味ったらしく「は~っ」ため息をついた。
「そして、今すぐ直して。終わらなかったら残業してやって帰って。残業代つけないでよ」と言うのだった。今はこんな人がいたらパワハラとして処分の対象になるかもしれないが、昔はどんな会社にも必ずこういう人がいたもんだ。
みんながお局が早く辞めないかと思っていたが、なかなかいなくならなかった。
しかし、55くらいの頃、ようやく介護を理由に辞めて行った。取り巻きは悲しむふりをしていたが、本心ではみんな喜んでいた。お局がいなくなって、誰もその話題に触れなくなった。
お局がいなくなって、しばらくその席は空いていた。
もちろん、誰も座りたくない・・・。その人を思い出してしまうからだ。
しかし、その後、劇的に雰囲気がよくなったわけではない。また別の人の嫌な所が目立ってしまうだけだからだ。みんな、普段から無言で仕事をしていた。前はお局が誰に話しかけるでもなく喋っていて、うるさかったのだ・・・。
すると、突然。
「は~ぁ」
と、中年女性のうんざりしたようなため息が聞こえた。
周囲に毒気を振り撒くような、一瞬で雰囲気を壊すようなあれだった。
みんな驚いて、お局の席を見た。当然、誰も座っていない。
「今、ため息聞こえませんでした?」
「聞こえた・・・」
「誰かため息つきました?」
みんな首を振った。
「まだ、Aさんがいるみたいだな・・・気持ち悪い!」
男性社員が叫んだ。
「怖いですね。〇〇部の主みたいな感じだったから」
「きっと、生霊ですよ」
みんなはまた仕事を再開した。
すると1時間くらい経って、また「は~ぁ」というため息が聞こえた。
みんなは顔を見合わせた。
「また、ため息、聞こえませんでしたか?」
「今、絶対聞こえた!」
若い女子社員は両手を前に組んで身を固くした。
「怖い・・・」
「取り敢えず早く仕事を終わらせて、今日は早く帰ろう」
部長がみんなに声を掛けた。それからは、全員必死になって仕事に取り組んで、定時になったらみな猛ダッシュで帰って行った。部長を残して。
部長はお局のことを考えていた。
今、どうしているんだろうか。
彼女がいたおかげで自分が楽できたのは間違いなかった。
彼女の統率力がなかったら、若手は今ほど育っていなかった。
すると、お局の席に誰かいるような気がしたそうだ。
「は~っ」
とため息が聞こえた。
間違いない、お局のそれだった。
「本当に部長は仕事しないよね。給料だけ高くて、ほんとむかつくわ」
部長の耳元で中年の女が囁いた。部長は後ろを振り返ったが後ろは壁だし、誰もいなかった。
「〇〇君、すまなかった」
部長は謝ったが、怖かったのですぐに席を立って帰ってしまった。
実は、あの後、お局に気に入られていた中堅の女子社員が連絡を取ってみた。
直接電話をかけたのだ。
「あ、久しぶり!」
お局の元気な声が聞こえたきた。
「あ、お元気ですか?」
「うん。元気、元気」
そうやって、2人はしばらく雑談していた。
「私、また前の部署で働きたいのよね・・・派遣とかでいいから」
その人はまずいと思って「でも、もう人は増やさないみたいです」と言ってしまった。お局はすごくがっかりしていた。自分がいないと職場が回らないと思っていたからだ。引き継ぎもかなり時間を取って、しつこくやっていたから、職場に未練があるのはみんな知っていた。
「じゃあ、今度遊びに来てくださいね」
社交辞令でその女子社員は言った。
「うん。みんなの顔を見に行くわ」
それからも、オフィスではお局のため息がよく聞こえたそうだ。
お局が定年を迎えたであろう、60歳の年まで続いた・・・ということだ。
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