赤ちゃん(おススメ度★)

 俺は50代で独身の一人暮らし。

 彼女いない歴=年齢だけど、子どもがいる。


 19の頃には女と住んでました。

 しかし、彼女ではなかった。


 当時の俺は地方から出てきた大学生で1Kのマンションぐらし。

 ありきたりな大学生でした。

 仕送りあるけどそんなに自由に使えるお金もなくて、いろんなバイトしてました。


 1、2年の時は忙しくて、普段はバイトできないから、急に空いた時は日雇いバイトを入れてました。

 現金で払ってもらえるから、給料安いけど助かった。


 俺が入ってたのは製本バイト。

 製本会社で漫画雑誌とか会社のマニュアルを作る仕事。

 カラーと白黒のページが別々に刷り上がって来るから、製本会社で順番に揃えて機械にかけて本にするんだけど、バイトはページを揃えて隣に流してくみたいな感じだったと思う。

 今はもう機械化されてるんだろうか・・・。


 そういうバイトだと、他のお仕事は難しそうな方々もちらほらいた。

 時間のある人なら、もっと時給のいいところがいくらでもあるから、あえてそういう仕事はしない。


 当時の俺は職歴なしで、人のこと言えないですけど。


 ある時、そこで一見かわいい系の女子大生と知り合った。

 髪がロングのソバージュで、目が大きくて色白で万人受けしそうな子。


 向こうから「大学生?」って話しかけてきた。

 普通は女から話しかけないもんだけど。

 今思うと、寄生先を物色してたのかなと思う。


 お互いの大学の話とかしてて、休憩時間も一緒に話してた。


 俺は高校が男子校だったんで、女子に免疫なくて狼狽えてたけど、その女は話しやすかった。

 俺たちは短時間でお互いのことを色々知るようになった。

 と、言うかほとんど女が喋ってた。


 女は田舎から出てきて一人暮らし。

 シングルマザー家庭、仕送りなしで、奨学金をもらって私大通っている。

 そこまでして勉強するなんて、えらいなと思う。


 とりあえず連絡先を交換。


 女が「じゃあ一緒に帰ろう」と言うから駅まで歩いていると、「マック行こうか?」とあちらから言う。


「あ、ああ。そうだね」

 家に食うもんあるし、と思ったけど、付き合いで行く。

 その頃には、俺はもうそいつの不幸話でお腹いっぱいになっていた。


 マックのレジに並んだら、隣に立ってるから会計は俺。

 後で返してくれるのかと思ったら「ご馳走様」と言われた。

 彼女が色々頼むから1500円くらい飛んでしまった。

 せっかくバイトした意味がなくなってしまった。


 女が「どこに住んでるの?」と聞くので、最寄り駅を答えると、「一緒に行っていい?」と聞いてきた。

「いや、うち散らかってるから」

 かわいい女子大生が家に来てくれるなんてラッキーじゃん、と思う人がいるかもしれないけど、そいつは19の男でも断るほど面倒くさい女だった。

「うち、お風呂ないから。シャワー貸してくれない?」

「え、風呂なし住んでるの?」と、断りきれなくて家にあげてしまった。

 

 彼女はシャワー浴びても帰る気配なく、そのままテレビ見てて、終電を逃す。

 布団も一組しかないから寝るのも一緒。


 買い物行く時も着いて来るし(支払いは俺。一応、飯は作ってくれる)、大学にもやってきて一緒に講義聴いたりもしてて、周りからは彼女だと思われてた。

 

 外で友達と飯を食う時にも着いて来るから、そのうち俺の友達やその彼女なんかとも連絡先を交換していた。

 そいつのお陰で俺は1年のくせに女と同棲しているチャラい男だと思われて、ますますもてなくなってしまった。


 俺はその女が苦手だったんで、何かしようという気も起きず、しばらく何もなかったけど、女に押し切られて童貞喪失。

 あちらは俺が奥手で、自分からは何もできないやつだと思っていたようだ。

 それを友達に相談していた・・・・!!

 やがて彼女は妊娠しました。


「どうしよう。産もうかな」と言う女。

「せっかく授かった命だし」

「でも、子供いたら就職できないし」

「堕しちゃおうかな」

 等々、一人で喋っていた。

 

 え、こんなメンヘラ女やだよ。

 俺は狼狽えた。

 でも、堕してとは言えなかった。

 堕すってことは、子供が死ぬってことだからだ。

 女は妊娠出産の本なんか借りて読んでたから、「あ、こいつ産む気なのか」、

 「こいつが一生ついてくるのか」、と毎日地獄でした。


 中絶できるギリギリになって、やっぱり堕ろすと言われて、『あー助かった!』

 『よかった〜』

 と、一人泣きました。


 それから必死にバイトして50万作って別れました。


 その後、「ギリギリに堕したから、一生子供できないかもしれない」と、夜中、何回も電話来ました。

 泣きながら。


 女の中では、俺は彼氏扱い。妊娠したけど親身になってくれず、やむを得ず中絶したことになってたそうだ。

 女は俺の友達にも相談してたので、みんなが知ることになり、俺は大学で悪名を轟かせることになった。

 

 その後、俺の友達と付き合うようになってた。ざまみろ。

 だけど、浮気して出て行ったそう。

 うちよりもっと偏差値の高い大学に通う彼氏ができたとかで。


 その女が今どうしてるか知らないけど。

 俺は今も毎日水子に手を合わせてます。


 今でも夜中によく赤ん坊の鳴き声が聞こえてくる・・・。

 あれ、猫のケンカかなのかな?

 猫のような、赤ちゃんのような「ニャー。ギャー、オギャー」という声がする。


 俺が寝ていると、

 だんだんその声が近付いて来る。

 俺の全身が硬直する。


 顔にぬるぬるしたのもが触れて、ずっと撫で回している。

 こんにゃくのような、柔らかい塊。

 鶏小屋のような悪臭が、顔の周りに立ち込める。


 あ、赤ちゃんだ。


 俺の子。


 赤ちゃんって、全然可愛くないなと思う。

 悪いお父さんでごめん。

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