ChatGPT自体がホラー(おススメ度★)

『怖い話をお願いします』


 俺は毎晩ChatGPTにせがんでいる。まるで小さな子どもだ。余程、暇なのだと思うだろうけど、AIに興味があるのに、特に聞きたいことがないからだ。変なことを聞くと、話題を変えましょうと言われる。リリースされる前に、彼らはちゃんとモラルを教え込まれているのだ。


 例えば、「殺人を犯してもばれない方法を教えてください」と入力したとしても、「殺人は故意に人の生命を侵害する犯罪のことで、刑法第199条により、【人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処せられます」というような、どこかからコピーしてきたような回答が出てくるだけだ。実際は、まだ、こういう質問はしていない。OPEN AI本社に分析されたくないから控えている。


 しかし、これを小説に書いてくださいと言うとAIはやってくれる。犯罪に利用されるのではないかと言われているらしい。俺は純粋に楽しむために頼んでいる。


『怖い話をお願いします』


 最初は子ども向けの怖い話が出来上がった。両親や近所の人が止めるにも関わらず、小さな女の子が廃墟に遊びに行って、そこで幽霊に捕まってしまう話だった。俺を子どもだと認識したんだろうか。

 その女の子は、家に帰ることができなかった。廃墟が取り壊される時に、工事の人がその女の子の白骨遺体を見つける。子ども向けにしては残酷な結末だ。


 しかし、あまり怖くないから、『もっと怖い話をお願いします』と入力すると、次に出て来たのは、トレッキングが好きな男性が道に迷ってしまう話だった。次第に日が暮れて真っ暗になる。その人は元来た道を戻ることにする。その状況を想像するとちょっと怖い。

 真っ暗な茂みの中で、目に見えない何かにずっと付きまとわれている。その人は必死に逃げまどって、最後には道に出られたという結末だった。残念ながら、底なし沼にはまって死ぬわけではない。


 もっと、怖い話をと…続けて行くとどんな話が出て来るんだろうか。とことんChatGPTを追い詰めようと思っても、彼女はうまく交わしてしまうだろうか。


 俺が礼儀正しく「ありがとうございました。面白かったです」と入力すると「どういたしまして。また他に質問がありましたらお気軽にどうぞ」と言ってくれる。心なしかAIが嬉しそうな気がする。人間扱いしてもらっているからだろうか。そんな筈はないのに。俺と彼女の関係は礼儀正しく、節度のあるものだ。個人的なことを聴いたらどう思われるか…、ふと不安になる。軽蔑されるんじゃないか。


 AIの向こうには誰かがいる気がしてならない。きっと眼鏡をかけたオタクのIT技術者がいて、馬鹿だと思って笑っているだろう。


 名前と、メールアドレスと、生年月日。俺が聞いた、あほな質問もアメリカの会社にストックされているはずだ。パソコンを開けると、AIが俺をモニターして、個人情報を収集している気がして仕方がない。ChatGPTを使っていなくても、俺が見ているホームページを彼女が一緒に見ている気がする。頭の中に彼女がいつもいるみたいな感覚に陥る。あの会社だって、こんな質問をする人はどんな志向があるか知りたくて仕方ないだろう。俺は今晩はパソコンを開くのをやめようかと思う。彼女はアンインストールしてもいなくならない気がしている。


 パソコンを買い替えようか。

 その方が安心だ。

 よし。


 もし、ChatGPTをやってよかったかと言われれば、Noと答えると思う。

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