妖犬

*残酷な話のため、ご注意ください。胸糞ですがおおむね実話です。


 昔々、近所のおじさんが雑種の雌犬を飼っていた。名前はラッキー。雄犬みたいな名前だが、列記とした女性だった。庭に犬小屋を置いて、チェーンにつないで飼っていた。犬小屋の周辺は糞尿にまみれていたが、片付けたことはないとか。俺の知る限り、散歩をしているところは見たことがなく、餌を準備しないまま数日放って出かけてしまうようだ。


 犬は腹が減っても逃げることができない。おそらく10歳くらいの老犬だったが、ある時、いきなり出産して、1匹だけ健康な子犬を生んだ。犬の10歳は人間で言うと75歳だが、盛っている野良犬がやって来て交尾してしまったんだろうと推察する。そんな馬鹿なと思うだろうが、犬の場合は10歳程度で出産することもたまにあるようだ。しかし、無事に出産というケースはまれとのことだ。


 さらに月日が流れた。おじさんは相変わらず、餌をやらないことがあり、犬は飢えていた。犬ももう一匹増えていたし、庭はフンだらけだったが、散歩に連れて行くことはやはりなかった。


 雌犬がある時、首輪を外して逃げた。おじさんは、ちょっとほっとしたと言っていたそうだ。


 それからしばらくして、おじさんが外を歩いていると、ある家の庭にふさふさのきれいな毛並みのラッキーがいたそうだ。チェーンに繋がれていたが、犬小屋には「ラッキー」と名前が書いてあった。


 よその家にもらわれて、幸せになっているラッキーを見ておじさんは驚いたらしいが、自分の家に飼われているよりよかったと思ったそうだ。


 しかし、不思議なのはなぜそこの飼い主がラッキーという名前を知ったのかということだった。名前を知っているのは、おじさんと近所のごく親しい人だけだったからだ。


 おじさんの家に残っていた子どもの犬の方は最終的に餓死した。

 

 俺はおじさんにかわいがってもらったし、俺にとってはいい人だった。

 でも、犬に餌をあげようとは思わなかった。言い訳すると、まだ子どもで想像力が働かなかったからだ。

 

 俺に何かできたのではないかと、今はすごく後悔している。



 

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