願い

 叶えたい夢がある場合、寝る前にそれを紙に書いてじっと見つめる。

 そして、それが叶った時の様子を思い浮かべてニヤニヤする・・・これだけで叶うらしい。

 細かいことはさておいて。

 これは、おまじないとかじゃなく、一種の自己暗示だ。


 みなさんなら、何を書きますか?

 金持ちになりたい?

 美男美女と結婚したい?

 ロシアのウクライナ侵攻が終わること?


 大好きなあの人を振り向かせたい?


 好きな人を振り向かせるのは、実際は東大に受かりたいというより難しいかもしれない。自分だけが頑張ればいい試験などとは違い、相手がいるからだ。

 他人を変えることはできない。


 これはネットから拾って来た話だ。


 Aさんという中学生の女の子がいた。

 クラスに好きな男子(B君)がいた。B君は普通の子で、クラスで一番人気の男子なんかではない。ただ、何となく優しそうで、雰囲気が好きだったらしい。

 Aさんはさっき書いた方法を試してみた。


『B君と付き合えますように』


 俺が創造主なら、こんな願いは叶えてやりたい。

 でも、よくよく考えたらみたら、B君にも好きな人がいるだろう。

 勝手に決めるわけにはいかない。


 次の日学校に行くと、B君がAさんに「おはよう」と言って来た。

 これまでは、なかったことだ。

 Aさんは、メモの効果に驚いた。

 

 その夜、Aさんはメモにこう書いた。


『B君ともっと仲良くなりたい』


 次の日、学校に行くとB君が話しかけて来た。

「宿題やった?」

「う、うん。」

 Aさんは驚いた。

「難しくなかった?」

「うん。けっこう時間かかったかも」

「水曜日に出すのやめて欲しいよね」

 B君はそれだけ言って去って行った。


 あれは何だったんだろう。

 Aさんはメモの効果は絶対だと思った。

 それからも、B君は毎日話しかけて来た。

 Aさんは、自分からも話かけるようにしたそうだ。 

 もしかして、つき合えるかも・・・Aさんはメモに書いた。


『B君と手をつなぎたい』


 Aさんは次の日、B君が図書館に一人でいるのを見つけた。

 Aさんは早速話しかけた。


「珍しい。本なんて読むの?」

「なんだよ、それ」

 B君は笑った。

「あ、ごめん。変な意味じゃなくて。何の本借りるの?」

「あ、え~とね・・・小説」

「あ、そうなんだ」

「どんなジャンル?」

「わかんない」

 B君は面倒くさそうに言った。

 会話が続かない・・・Aさんは焦った。

「一緒に帰ってもいい?」

「いや。俺自転車だし」

「私もだよ」

「でも友達と帰るから」

「あ、そっか。ごめんね」

 Aさんはその場から離れた。


 B君ってもしかして、私のこと好きじゃないのかなぁ・・・。Aさんは不安になった。


 また、その夜のメモに書いた。


 『B君とつき合えますように』


 次の日、AさんはB君には話しかけなかった。昨日気まずかったから、話しかけると嫌がられると思ったのだ。

 すると、B君がまた話しかけて来た。

「昨日、図書館で何借りたの?」

「ハッピーバースデー・・・っていう本知ってる?」

「ああ、知ってる。面白かったら俺も次それ読むわ」

 あ、よかったそんなに嫌われてないかも。Aさんはほっとした。話しかけて来るってことは、ちょっとは希望があるっていうことだ。


 Aさんは、B君の煮え切らない態度に苛々して、思い切ってラブレターを書くことにした。以前、Line交換をしたいと言ったけど、断られたからだ。断る時も笑顔で、決して嫌われている感じではなかったのだ。


 AさんはB君が一人の時に「後で読んで」とラブレターを渡して、返事が来るのを待っていた。


 その日は何だか教室の雰囲気がおかしかった。みんなザワザワしていて、自分のことを冷ややかな目をして見ている気がしたのだ。Aさんは不安になったが一人で家に帰った。


 家に帰って、夜寝る前にまた「B君に愛されたい」と書いて寝た。

 Aさんの脳内では、大好きなB君と公園のベンチに座っていて、腕にもたれながら、夕飯の時間までお喋りしながら過ごしていた。


 次の日、学校に行ったら、Aさんの机の上には手紙が置いてあった。

 B君の字だった。

 Aさんは机の上に置かなくても・・・と思ったが、その場で開いて読んだ。

 すると「つき合えない。ごめん」と書いてあった。


 みんなが大爆笑した。

「かわいそ~」

「お前、付き合ってやれよ!」

「いいよ・・・俺は」

 B君は控えめに断っていた。


 みんながAさんの告白を知っていたのだ。

 B君はこれまで罰ゲームでAさんに話しかけていたのだ。

 なぜなら、Aさんは学校に1人も友達がいなかったから、Aさんには誰も話しかけたくなかった。B君は1人で孤立しているAさんを可哀そうだと思っていたから、話しかけたのには、単なるからかいではない気持ちも含まれていた。


 Aさんは、その夜、寝る前にまたメモを書いた。


「B君がこの世からいなくなりますように」


 毎日、毎日、同じことを書いているうちに、不思議なことにB君は学校を休むようになっていった。AさんはB君がダメになっていくのが嬉しかった。


 B君は学校に行くと、Aさんに恨まれているような気がして気が滅入ってしまい、学校に行くこと自体がストレスになって行った。もともと真面目な性格で、いじめに加わるようなタイプではなかったからだ。

 

 B君はAさんの家を調べて、手紙を書いた。

「からかってごめんね。いつもAさんが一人だったから、励ましたくて声をかけてたけど、今思うと余計なおせっかいだったよね。これからは友達になろう」

 そして、B君は手紙にラインのIDを書いた。


 Aさんは、どきどきしながらB君にラインを送った。

「いいよ。いつも声を掛けてくれて嬉しかったよ。じゃあ、今日の放課後、〇〇公園で待ってて」

 B君は「わかった」と返事をした。


 翌日、公園に向かうAさんの手には包丁が握られていた。


  


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る