お地蔵さん

 俺はお稲荷さんと並んでお地蔵さんが怖い。


 親からは、幼い頃、お地蔵さんをむやみに拝んではいけないと言われていた。

 道端のお地蔵さんはもともと、身代わり地蔵や、亡くなった人の供養のために建てられていることが多いので、ただの石像とは違う。さ迷っている霊魂が救いを求めて集まってくるらしいのだ。


 だから、うかつに拝むとそれらがついてくる、と親は言っていた。


 これは知り合い(Aさん)から聞いた話だ。

 Aさんは旅行が好きだった。


 あまり知られていない田舎に行って、写真を撮ったり、散策したりを毎月のようにやっていた。


 数年前に四国に行った時、道端に1体の小さなお地蔵さんを見つけた。

 石を粗削りに掘って作ったもので、目鼻口のない、ただ輪郭だけが人の形になっているものだった。

 Aさんはきっと古い物だろうから、珍しいと思って写真を撮った。


 そして、軽く手を合わせた。


 それから、再び歩き出したが、どうも肩が重い。

 頭も痛い。

 熱中症かなと思って、ベンチに座って水を飲んだりして休んだが少しもよくならない。


 早めにホテルにチェックンインして休もうと思ったが、近く参拝に行く予定だったお寺があったので、這っていくような感じで何とかたどり着いた。


「すいません。御朱印帳お願いします」


 Aさんは、そこにいたお坊さんに声を掛けた。

 すると、その人が「後ろの方はご一緒ですか?」と聞くので、Aさんはびっくりして振り返った。


 誰もいなかった。

 しかし、もし、誰かいるのなら一緒に金を払ってあげようと思った。


「お願いします」


「御朱印帳はお持ちではないんですか?」

 お坊さんは言った。

 Aさんは目に見えないその人のために、わざわざ御朱印を買って、書いてもらった。せっかく書いてもらっても、見えないのだから渡すこともできない。

 

「じゃあ、預かります」

 Aさんは御朱印帳を受け取ったが、その後どうしていいかわからなかった。

 ホテルまでずっとついて来られても困ってしまう。

 昔話などで、霊がありがたいお経を聞いたら成仏できた、という話を思い出した。


「すみません。後ろの人のために、ありがたいお経を読んでもらえませんか?」


「今からですか?いいですよ。今日はあまりご参拝の方もいらっしゃいませんから」


 お坊さんは本堂にAさんを案内した。

 一応、Aさんと目に見えないその人は並んで座った・・・ことになっていた。

 お坊さんは普通の参拝者として2人にお経を読んでくれた。


「あれ、ご一緒の方は?」


 お坊さんはお経を読み終えてこちらを向くと、不思議そうに言った。

 Aさんは「実は・・・自分は見えていなかったんです」と打ち明けた。お坊さんの顔は引きつっていた。


「どんな人だったんでしょうか」

「50代くらいの男性で眼鏡をかけていて、上はボーダー柄のポロシャツを着ていてました。」とお坊さんは言った。「すごくぴったりくっついておられたので、てっきり恋人同士だと思いました・・・。こんな感じで肩に手を置いて、腕をつかんで、背中にぴったりついていました」


 Aさんはぞっとして、肩に手をやると先ほどの痛みがすっかりなくなっていた。

 その後は、霊がついてくる感じはまったくなかったそうだ。

 

 もし、お経を読んでもらわなかったら、どうなっていたのかとAさんは怖くなった。それからは、もうお地蔵さんの写真を撮ったり、拝むのはやめようと思ったそうだ。


 *お地蔵さんに浮遊霊が集まるというのは、個人の見解です。

 

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