スナック

 スナックは霊が出やすいという。夜遅くまでやっていて、さらにメンタルに問題を抱えた人が多いからということもあるだろう。


 これは人から聞いた話。あるスナックに一人で飲みに来るおじいさんがいた。肉体労働者風で、角刈りだった。顔に長年の苦労がにじみ出ているような、深い皺が刻まれていた。


 あまりお金を使わないタイプで、セットでビールと軽食を頼むだけ。お姉さんの接客は断わって、5曲くらいカラオケを歌って帰っていくという人だった。その店はカラオケが1曲100円だったそうだ。おじいさんは、他のお客さんに歌を聴いてもらいたかったのか、にぎやかな雰囲気が好きだったのかはわからない。他のお客さんと交流するということはなかったらしい。


 だから、毎回たった3,500円くらいしか使わないで帰っていくという、店としてはもうからない客だった。きっとお金がない人なんだ。お店の人たちは思っていた。

 それでも、その人は毎月やって来たそうだ。年齢的には70くらいだったらしい。いつも来るから、酒を頼んでくれなくても、ホステスさんたちはおじいさんのことが好きで、声をかけていた。無口だけど、お姉さんたちにカラオケを奢ってくれてたそうだ。


 その人が、ある時から、ぱったりと来なくなった。


「そういえば、あの人来ないよね」

「どうしたのかな?病気かな」

 お姉さんたちが話していると、いきなりカラオケが再生された。おじいさんが好きだった、北島三郎の曲だった。

「え!こわい!」

「来てるんじゃないの・・・内藤さん」

「もしかして死んじゃったのかな?」

「そうかもね・・・」

 どのまま、誰も歌わないカラオケが勝手に流れていた。

 多分、誰かが聞きたかったんだと思ったから、お姉さんたちはそのままにしておいた。

 

 そこの店は小銭を入れると、カラオケが再生されるようになっていたそうだ。

 でも、時々、そんな風に、お客さんがいないのにいきなり曲がかかることがあったそうだ。

 

 スナックの客は何処の誰かわからないし、急に来なくなる。

 だから、寂しいとそのお店の人は言っていた。

 おじいさんは、その店の雰囲気が好きだったんだろうと思う。

 お姉さんたちが、優しくもてなしてくれるのが好きだったに違いない。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る